大容量バックアップの手法



テープ・バックアップ装置の実際

 ひと口にテープ・ドライブといっても, 多くの種類がある。 パソコン用の テープ・バックアップ装置という意味では, 現時点ではDAT(Digital Audio Tape), データ8mm, QIC(Quarter Inch Cartridge)という3種類が覇を 競っている




 テープ・ドライブは, 他の大容量記憶装置に比べると メディアのコストがダントツに安い。 ただし取り扱いはやや面倒だ。 ハード・ディスクや MOのように ランダム・アクセスではなく, シーケンシャル(頭から順)にアクセスする。 データを 読み出す場合には, テープを 巻き戻し/早送りを する必要がある。 データの読み書きだけなら MOなどよりは速いが, 巻き戻しなどを 含めたトータルのアクセス時間は長い。 このため, 頻繁に読み書きする用途には 向いていない。 逆に, 大容量のデータを 一気に読み書きする用途, すなわちバックアップには最適である。 テープ・ドライブを 使うには, 専用のソフトが必要になる。 一見面倒に思えるが, その分だけ勝手にデータを 変更される心配もなく, バックアップには都合がよい。


テープが最も小型のDATドライブ

 3種類のテープ・ドライブで, 最もカートリッジが小型なのが DATドライブだ(図4)。 ドライブ自体も小さく, 3.5インチ型である。 パソコンや ワークステーション(以下WS)用の テープ・バックアップ装置として, 米国では最も注目されている。 実際に米国での伸びは最も高く, その分だけドライブの価格も安くなっている。


図4 DATドライブの例 (写真はマックギャラリーSDT-4000)

 DATドライブは, オーディオ用のDATが基になっている。 米Hewlett-Packard社(以下HP), ソニー, 米Conner社, 米Exabyte社などが開発・製造している。 そのテープ幅から, 4mmテープ・ドライブと記述されることもある(実際は約3.81mm)。 もともとはHPとソニーが共同で開発したものだ。 コンピューター・データを DATで記録するための規格を 「DDS(Digital Data Storage)」フォーマットという。 規格を 決めたり, 実際のドライブとメディアの互換性などを 調べる団体としてDDS Manufacturers Groupeがあり, HPやソニーを 中心に約20のメーカーが参加している。
 1989年に最初のDDSフォーマットに対応したドライブ(1.3GB)が出た。 その後ハードウエア圧縮機能を 搭載したDDS-DCを 経て, 現在はDDS-2(非圧縮時4GB)ドライブが主流である。 カートリッジは, OEMを 含めると日立マクセルがシェアのトップである。


記憶容量は大きいが高価なデータ8mm

 8mmテープ・ドライブは,ソニーが開発した8mmビデオが基になっている製品だ。ドライブの大きさは,5インチのフル・ハイトのものと薄型のハーフ・ハイトのものと2通りある(図5)


図5 5インチ型8mmドライブの例 (日本システムハウスのEXB-8505XL)

 8mmドライブの特徴は, 他に比べて容量が大きいこと。 テープのフォーマットにより異なるが, 非圧縮時で3.5GBと7GBの2通りある。 ただし, 価格は他に比べて高い。
 記憶容量が大きいことからWSなどで使用されていたが, ハード・ディスクの大容量化に伴いパソコンでも利用されるようになった。  ドライブの開発は米Exabyte社1社のみ。 他のテープ・ドライブは複数メーカーが競合しており価格競争が生じるが, 1社だけだと価格が安くならないのではという不安もある。 カートリッジは, ソニーが中心となって供給している。


歴史が最も古いQIC

 QICは, その名の通り1/4インチ(約6.35mm)幅のテープを 使った製品だ(図6)。 3種類の中では最も歴史が古い。 このため, 累積出荷台数もNo.1である。 しかし大容量化という点では, 後発のDATや8mmにやや遅れている。 Quarter Inch Cartridge Drive Standardsという団体があり, QIC規格の選定や互換性チェックなどを 行っている。 ドライブ・メーカーには, 独Tandberg社, Conner, HPなどがある。


図6-1 QICドライブの例1(写真はタンベルグデータのPANTHER2000)



図6-2 QICドライブの例2(写真は日本システムハウスのEXB-2501T Macでこちらはミニ)

 QICには, カートリッジの大きさが2種類ある。 3.5インチのミニカートリッジ(DC2000タイプ)と 5インチのカートリッジ (DC6000タイプ)だ。 対応するドライブも異なる。
 ミニカートリッジ用ドライブは, もともとIBM PCの フロッピー・ ディスク・ インタフェースに 接続する製品で, 容量は数百MB程度のもの。 価格が安いのが魅力で, 日本でもドライブが 3万円程度で入手できる。 ただし, マック用の製品はほとんどない。 最近ではSCSIインタフェースを 利用した大容量の製品が出てきた。 これはマック用もあり, 容量は1GB前後。 来年には2GBの製品も出る。 ただし, 各ドライブ・メーカーによって フォーマットが異なり, テープの互換性がないというのが実情だ。
 5インチのカートリッジは, 主としてワークステーションで使用されてきた。 5インチの容量は, 最長のテープを 使用した場合2.5GB。 こちらも, 各メーカーによりフォーマットが異なる。
 ちなみにカートリッジのシェアは, 最初にQICを 開発した住友3Mがトップだ。


小型・大容量化が進むテープ・ドライブ

 カートリッジの大きさを 図7に, 簡単な比較を 表1に示しておく。


図7 テープ・カートリッジの例。 左からQIC5インチ, データ8mm, QICミニ, DATの順。 3.5インチMOも 参考までに並べてみた (後ろの白いもの)



 3者を 比較すると, DATと8mmは同じメカニズムを 利用しているのに対し, QICだけが異なる。 DATと8mmは記録密度を 高めるために, ヘリカル・スキャン(斜め走査, いわゆる回転ヘッド)を 採用している。 この方式だと, データを 記録する列(トラック)間の距離が縮まり, QICの固定ヘッド(ラジカセと同じ)と比べてより高密度の記録が可能だ。
 また, DATと8mmのテープ・カートリッジは単にテープが入っているだけだが, QICはテープ内にベルトなどが組み込まれており, 構造は複雑になっている。
 DATと8mmは, 単純に言えばテープの幅だけが異なると考えてよい。 幅が広い分だけ, 記憶容量は大きくなる。 ここだけ考えると, 8mmは常にDATよりも記憶容量は多くなる。 しかし, ドライブ価格は今後もDATが安いのは変わらないと予測される。
 現時点では, どれが将来的に生き残るのか予測しにくい(図8)。 後述するが, テープ・ドライブを 生産しているメーカーは, これら3種のドライブのすべてに手を 出していて, 万が一の保険にしているというのが実情である。 ただし, 小型・大容量の方向に進んでいくのは間違いない。


図8 テープ・ドライブの容量と 転送速度の推移。 94年以降は各社の予定。 実際に この通りになるかどうかは 分からない

 テープ・ドライブの価格は, メーカーや販売店によって結構バラツキがある。 ただし, 価格は下がる傾向にあるのは事実。 例えばDATドライブは, 1993年4月の時点では50万円近くしたものが, 現在では20万〜30万円と, 半分近くに値下がりしている。 米国ではさらに安く, 市場価格は1000ドル以下だ。 米国ではテープは比較的ポピュラーな製品だと言うこともあるが, 今後日本でも需要の伸びにより, さらに価格は下がると思われる。


圧縮の表記には気を付ける

 テープ・ドライブは記憶容量を 高めるため, ハードウエア圧縮機能を 持っている。 このため, テープ・ドライブの容量表記には幅がある。 ただし, 圧縮時の容量を 鵜呑みにしてはいけない。 非圧縮時4GBで圧縮時16GBといった表記のドライブもあるが, これはおかしい。 圧縮効率は, ファイルの内容によって異なるからだ。 目安としては, 圧縮時の容量は, 非圧縮時の2倍程度とみておくべきだろう。


テープは専用のものを 使用すべき

 カートリッジの取り扱いには注意が必要だ。
 テープは, ヘッドが接触する, 媒体が伸びやすいなどの特性上「データを 保管しておく」ことに不安を 覚えるユーザーもいると思う。 データの信頼性という面でいえば, 「やはりMOなどと比較すると, 3倍ぐらいの差はある」(日立マクセル磁気テープ事業部課長の小田氏)。 しかしながら, これはあくまでも過酷な条件下での話であって, 「通常のオフィスでの使用であれば, それほど問題はない。 それでも心配ならば, 2本バックアップを 取っておくのを お薦めする。 それ以上はあまり意味はない」(小田氏)。
 DATと8mmについては, 民生用の機器を 基にしている関連上, 低価格のオーディオ用DATテープやビデオ用8mmテープが使用できる機種もある。 ただし, 当たり前の話かもしれないが, AV機器用のテープを 使うのはやめた方がよい。 市販のテープとデータ保管用のテープでは, 品質がまるで違う。 特に, 1本のテープに何度もデータを 書き込む場合には, その差がはっきり現れる。 不良ブロックが増え, 記録容量が減ったりベリファイ・エラーなどで書き込み速度が低下する。 市販のテープでは, 1つのテープにそう何度も書き込むことは想定していないからだ。 機械部分の精度の問題からも, テープがヘッドに巻き付くなどクラッシュする確率も高い。 1回しか書き込みしないのだからといって, バックアップのデータが使いものにならなくなっては, バックアップする意味がない。
 ちなみにDATでは, DDS-1の旧型を 除き, 基本的に市販のテープは 使えないようになっている。 データ用テープの先頭に, スプライト・パターンという特殊なブロックがあり, ドライブはこの部分を 認識して, データ用なのかオーディオ用なのかを 判別し, オーディオ用は使えないようにしている。 最新の8mmドライブも, 同様の処理を している。
 このほか, テープ・ドライブはヘッドが接触することもあり, 機を 見てヘッド・クリーニングするのがよい。


速度はそれほど変わらない

 最後に, 実際にバックアップにかかった時間を 示しておく(図9)。 テストは, バックアップ用ソフトの「Retrospect」を 使って, 約100MBのデータを 記録するのにかかった時間を 測定した。 今回のテストでは, Retrospectでデータを 書き込む際に, 書き込んだ内容を 再確認するように設定した。 これを しないように設定すると, 約半分の時間になる。 いくつかのドライブで実験を 行ったが, QIC(DC6000)タイプがやや遅かった以外は, 速度にそれほど差は出なかった。 ただし, グラフでは書き込みに純粋にかかる時間を 表したが, テープ上のデータの消去などにかかる時間などを 入れると, DATドライブのレスポンスが良かった。


図9 ベンチマークの結果




表2 主なテープ・ドライブの一覧