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/ DOS/V Power Report 1997 February / VPR9702A.ISO / FFILLY / TOKYOS / SB3_1N.TXT < prev    next >
Text File  |  1996-11-19  |  13KB  |  302 lines

  1.  
  2.    砂漠の果て  第二章  ゲートウェイ 
  3.  
  4.                                【トットの森】                              
  5. ----------3-----------
  6.  ガシャーン。
  7.  いきなりタカシは投げ出された。丁寧な到着とはいえな
  8. いものだった。このカートは自動的に資材貯蔵場所に荷物
  9. を放り出すように設定されているのだろう。ほかの土管と
  10. 同じように、彼も地面に投げ出された。4つのクローを持
  11. ったホイールローダーが彼の土管も、持ち上げ資材の山に
  12. 積み上げた。
  13.  両手、両足を突っ張って、振り落とされないようにタカ
  14. シは耐えた。しばらくして、ゆっくりと山の頂上に彼の乗
  15. り物も無事貯蔵された。無人のホイールローダーは土管の
  16. 中に生き物がいることなど全く気にしない。
  17.  忠実で勤勉なロボット達の動きに注意しながら、タカシ
  18. は資材の山から、体を滑り出させた。左手の指はパンパン
  19. に腫れ上がっていた。指を切り落としたい衝動にかられる
  20. ほどの痛みだ。
  21.  巨大なトンネルの中のようだ。掘削機械が遠くで、岩盤
  22. を掘り起こしていた。
  23.   その回りに磁場フィールド専用のカートが、行儀良く並
  24. んでいた。掘削機械の円形のドリルは時々排水をするため
  25. に止まり、回りを囲む作業車がポンプで掻いだした海水を
  26. 排水ラインに運んでいた。
  27.  TOKYO・CITYは海底にある。
  28.  どこを掘っても水が出てくる。都市を広げる作業はいつ
  29. も、水との戦いだった。
  30.  どうやら、人間の姿はなさそうだ。排水溝をたどれば、
  31. どこかにでるだろう。
  32.  泥水が流れる方向に、溝にそってフラフラと彼は歩いた。
  33.  作業ロボットたちは、明かりを必要としない。照明は最
  34. 小限に押さえられている。広いトンネルのなかに所々、非
  35. 常灯と書かれた緑のライトがあるだけだ。
  36.  ときどき、ネズミのような小動物がタカシに驚いて、逃
  37. げていった。じめじめとした黴び臭い空気が、かすかに緊
  38. 張した。
  39.  遠くに見張りのための事務所の明かりがある。トラブル
  40. が発生したときに人間が待機しているのだ。タカシは腰を
  41. かがめて、事務所の職員に発見されないように移動するこ
  42. とにした。
  43.  「都市公安軍がなんでこんなところにくるんだよお。」
  44.  「軍の考える事なんて、気にしちゃいけないんだ。あい
  45. つら、まともだったことなんてありゃしない。」
  46.  事務所のドアが開いた。強い照明がトンネル内を照らし
  47. だした。
  48.  装甲車が3台、事務所脇に着陸した。20人ほどの軍服
  49. をきた男達がおりた。男達は肩に装着するかたちの小型の
  50. ショックガンを携帯している。
  51.  タカシは排水溝に飛び込んだ。腰の高さほどある水に四
  52. つん這いになって、姿をかくした。塩水が傷口に浸みたが、
  53. 気にしてはいられなかった。
  54.  「でかい、あなぐらだな。何をほってるんだ。」
  55.  聞き覚えのある声がした。中央にいる一人だけ平服の大
  56. 男...デシだ。
  57.  「火星行きの輸送船の第3格納庫です。おねがいだから、
  58. あんまり、その人殺しの道具をあちこちでぶっ放さないで
  59. ください。ここまで掘るのに5年かかってるんだ。それに、
  60. このあたりは、海面に近い。岩盤に穴をあけたら、水浸し
  61. になっちまう。」
  62.  「大丈夫さ。」
  63.  デシが首を横に振って合図すると、男達が四方に散らば
  64. った。二人一組で捜索を開始した。
  65.  いずれ、みつかるだろう。
  66.  タカシは四つん這いの姿勢で移動はつづけた。
  67.  「発信機では、このあたりにいるはずだ。」
  68.  男達は手持った何かでタカシの位置を確認しながら動い
  69. ているようだ。
  70.  「危険分子がここに隠れている情報があったのでね。大
  71. 丈夫、火力は押さえてある。工事の邪魔はしない。」
  72.  手術の時にタカシは何かを埋め込まれていたことに気づ
  73. いた。軍隊は確実にタカシのいる方向に進んでいる。どこ
  74. に逃げても、彼らにはお見通しなんだ。
  75.  深い絶望がタカシをおそっていた。
  76.  流れる泥水のなかに、体を横たえた。トンネルと、外部
  77. をつなぐ磁場フィールドのラインの先に、きらきらと輝く、
  78. 宇宙港のターミナルの光が見えたような気がした。つい、
  79. いましがた、軍隊が進入してきたラインだ。大気圏外に脱
  80. 出する船のために、宇宙港の管制塔は都市の外、空にまで
  81. 届きそうな高さを誇っていた。
  82.  
  83.  細長い尖塔にところどころ、球体のアンテナがついてい
  84. た。最上部はまぶしいほどにきらめいていた。遠く火星か
  85. らくる船に、港の位置を教えるためだろうか。
  86.  
  87.  あそこまでいければ...
  88.  
  89.  タカシは再び前進を再開した。男達の足音が近づいてきた
  90. が、恐怖は感じなかった。いけるところまで、宇宙港に近づ
  91. きたかった。ターミナルの北ウイングが両手を広げるように
  92. 彼を誘っていた。紫と赤、緑と黄色に分けられた光のライン
  93. にそうように、小さな輸送船が並んでいる。手を伸ばせば届
  94. きそうだ..
  95. その先には彼の恋こがれる赤い惑星がきっとあるはずだ。 
  96.  
  97.  その時だ。背中に何かが当たった。ショックガンだ。
  98.  タカシは再び気を失った。
  99. -------------4-------------
  100.  白衣。ゴム手袋。ベッド。
  101.  夢の中の風景のようだ。タカシの意識は点滅していた。
  102.  病院だ。ふりだしにもどる...か。
  103.  もう、どうにでもしてくれ。
  104.  「この生まれたての赤ちゃんはとんでもないもんを運んで
  105. 来たな。起爆装置のついた発信器がみえるぞ。」
  106.  「摘出しよう。」
  107.  あの、軍隊はなんだ。デシは軍隊なのか。
  108.  タカシはうわごとでそう呟いていた。
  109.  「デシはTOKYO・CITYの都市公安軍の凄腕さ。執
  110. 念深さでは有名な化け物だ。」
  111.  誰かが答えた。
  112.  「ぼうやは、最悪の男に好かれたんだ。」
  113.  タカシの意識は再び、途絶えた。
  114. ----------5------------
  115.  
  116.  ケイーイザベルーの退院許可はその日の午後に出た。しばら
  117. くは、通院の必要があるということだった。二週間に一度、定
  118. 期検査を繰り返して、異常がないか調べる。それも、いずれ、
  119. 終わるとダンが教えてくれた。
  120.  
  121.  「退院の日だというのに、どこに消えてしまったかとおもっ
  122. ていたわ。ひょっとして、わたしと離婚するつもりかしら。」
  123.  退院の許可がでてから、一時間ほど、ダンの姿が見えなかっ
  124. た。彼がくるまで、病室から出るなといわれてやきもきしなが
  125. ら、ケイーイザベルーは夫の迎えを待っていた。
  126.  「退院することがわかったから、チューブカーを洗ってたん
  127. だ。」
  128.  「あら。」
  129.  「砂埃の中を走ってきたから、シートまでざらついていたの
  130. でね。奥さまをのせるにちょっと、気がひけたんだ。」
  131.  「15年モノのオールドチューブカー。」
  132.  にっこりとケイは微笑んだ。
  133.  「そろそろ、16年だ。」
  134.  ダンからは、かすかに汗のにおいがした。
  135.  「何も、もってこなかったから、簡単に水で流すだけだけど
  136. ね。すこしは、ましだよ。」
  137.  「いいわ。わたしもナイトドレスの用意ができていないこと
  138. だし。」
  139.  「ボクもタキシードも、花もないよ。」
  140.  「パーティは玲子がチューンナップして帰ってきてからにな
  141. るのね。」
  142.  病室に白衣の医者がはいってきた。
  143.  「退院おめでとうございます。もう、いっていいですよ。」
  144.  「どうも、今までありがとうございました。」
  145.  病院の中にほかの患者の気配はなかった。病室をとりまくよ
  146. うに、職員が二人を囲んだ。みな口々に退院祝いを口にしなが
  147. ら、ゆっくりと、一つの降下フロアにケイを導いた。
  148.  「まったく、大げさなんだから」
  149.  二人だけになると、ダンが、まるで護送されているようだと
  150. 呟いた。いつまで、この秘密主義をつづけるつもりなんだろう。
  151. 降下フロアを降りて、チューブカーに乗り込むまで職員たちが、
  152. 二人を取り囲んでいた。
  153.  
  154.  紫色のボディに黒のラインのチューブカーの回りに、紫外線
  155. 防護フィールドのライトが点くまで、彼らは離れなかった。
  156.  ケイは後ろ向きで、彼らに手を振った。
  157.  噴射口から、爆音がとどろき、あっと言う間に、彼らの姿は
  158. みえなくなった。少し乱暴な、スタートだった。
  159.  「終わったのね。」
  160.  シートに深く、彼女は座り直した。
  161.  
  162.  「疲れたかい。」
  163.  「いいえ。」
  164.  地平線が見える。病院の建てられたあたりは、最近まで海中
  165. に沈んでいた。一部干潟のようになっているが、ほとんどは、
  166. 干上がり、ひび割れている。所々、植林の枯れた林が残ってい
  167. る。まだ生きている植物もあるのか、緑色の枝も見える。植え
  168. 替えられて、時間のたってないものだ。
  169.  「磁場フィールドが薄くなっているだろう。」
  170.  「そうね。地面からどれくらい離れているの。」
  171.  「30メートルくらいだ。飛び降りてみたいかい。」
  172.  「そうね。あなたと喧嘩したら、試してみたいわ。」
  173.  植物や人工の建造物はまるでみえない。高く細い丘のように
  174. 見えるものは、ほとんど古い人工の建造物の後だが、長年の風
  175. 化と海水による寝食で一枚の岩のようだった。近づいてみると
  176. さびた鉄骨が飛び出ていることもある。しかし、フィールドご
  177. しに見る限り、自然に作られた地形にしかみえない。
  178.  
  179.  トチョウ遺跡のあたりは、緊急用の自家発電装置がときおり、
  180. 発光している。住み着いている奴らの仕業だ。あの廃墟でどう
  181. やって生活しているのか分からないが、地下部分を広げて暮ら
  182. しているのは間違いない。
  183.  
  184.  「玲子はかえってきてるの。」
  185.  「ああ、そろそろ届けられているはずだ。また、綺麗になっ
  186. ているといいんだけれどね。」
  187.  「そうね。」
  188.  チューブカーは静かにシューターの中を走った。
  189.  30分ほどで、大きな円筒状のゲートが見えてきた。センサ
  190. ーがチューブカーのナンバーを確認するので、通行料は自動的
  191. にクレジットカードから引き落とされる。通行量調査のために、
  192. 人が待機する事務所脇で一度、停止すれば、いいだけだ。
  193.  普段は誰もいない場所に、今日は珍しく人が立っていた。
  194.  3人ほどの若い男が手をふって、窓を開けろと指示した。
  195.  「何かの調査かい。」
  196.  ダンは何の疑いもなく、窓を開けた。
  197.  ショックガンが彼の喉元につきつけられた。ドアを開けろと
  198. 男は合図した。
  199.  猫背の若い男がひとり、後部座席に乗り込んできた。
  200.  「指示にしたがってもらえれば、乱暴なことはしない。」
  201.  彼は静かにいった。
  202.  「トチョウ遺跡に直行するんだぞ。」
  203.  二人の男達は、チューブカーから離れた。
  204.   「魔術師か。」
  205.    ダンが聞いた。
  206.   「わしらにとっちゃ、君たちの方が魔術師だ。」
  207.   年老いた男の方がそう答えたようだ。そして、二人の男の体
  208. は小さな点となって、大気中に拡散するように消えた。
  209.  「ホロだよ。立体映像。彼らは安全な場所にいる。君たちの
  210. 思惑通りにはいかなかったのさ。軍隊まで引っぱり出して大変
  211. だっただろうが、運良く、僕は助けられたわけだ。魔術師の魔
  212. 法でね。」
  213.   チューブカーに乗り込んだ男は、呆然としているダンに言っ
  214. た。
  215.   「これ以上、僕を助けてくれる人が殺されるのは、見たくな
  216. いからね。君たちのやり口は一度で十分、承知した。」
  217.   彼は、包帯でまかれた左手で銃身をささえ、ショックガンを
  218. ケイーイザベルに突きつけた。タカシだった。
  219.   
  220.   あの、格納庫の工事現場で彼は、また魔術師と名乗る老人に
  221. 救出されたのだ。タカシが監視から逃れるのをずっと、彼らは
  222. 街に潜んで待っていた。発信機の信号を読んでいたのは、デシ
  223. だけでは、なかった。
  224.  
  225.  「Uターンしてくれ。」
  226.   タカシは静かに指示した。
  227.  「君とはどこかで会っているかもしれないね。イザベル。ヒ
  228. ロ2001の中はそれほど、広い場所じゃないから。」
  229.  「タカシだな。」
  230.  ダンが呟いた。
  231.   「この男は人間かい?ヒューマノイドかい?」
  232.   どうでもいいように、タカシは聞いた。
  233.   「人間よ。わたしの夫だわ。」ケイーイザベルが答えた。
  234.   「どっちでもいいよ。ただ、気をつけた方がいい。こいつを
  235. 信じたいなら、それでいいが、注意しないとね。」
  236.  タカシはかなり疲れた様子だった。落ちくぼんだ目だけが、
  237. ギラギラとしていた。左手は、動かすと痛むらしい。
  238.  「ケイーイザベルーをどこへつれていくつもりだ。」
  239.  「彼女はどこにもつれていかないよ。彼女の意志で来るなら
  240. 受け入れる用意はある。でも、彼女にはそういうつもりはない
  241. だろう。君と仲良く暮らしたいそうだ。」
  242.  チューブカーを回転させて、もとのルートを選択した。
  243.  「そんなことはどっちでもいい。君たちの仕掛けた爆薬を彼
  244. 女から取り除きたいんだ。街で暮らすのには必要ない。」
  245.  タカシはケイーイザベルーの左腕を取って、強くひいた。
  246.  「傷跡は残らないはずだ。レーザーメスだから。」
  247.  消毒用のスプレーを振りかけて、左腕の脇で彼女の腕をささ
  248. え、肘の上を2センチほど、メスで切った。
  249. ケイーイザベルーが悲鳴をあげる間もないほど、素早い作業だ
  250. った。
  251.  
  252.  「やめてくれ。」
  253.  「大丈夫だ。もう、終わったよ。」
  254.  すぐに、タカシはイザベルの手を離した。傷跡は残っていな
  255. かった。
  256.  「発信装置を抜いただけだ。」
  257.  タカシは小さな丸い粒をダンに渡した。
  258.  「もう、何もしない。トチョウ遺跡の見えるあたりで、ボク
  259. を捨ててくれれば、それで、さよならだ。」
  260.  座席に深く沈み込むように、彼は座わりなおした。
  261.   「その発信機はなにか別の動くものにつけといてくれ、動き
  262. がとまったら、やつらが不審がる。その男が監視役だとしたら、
  263. そんなことを言っても無駄だけどね。君がイザベルの信頼を裏
  264. 切らないことを祈るよ。」
  265.   ダンはポケットの中にそれをほうり込んだ。
  266.   「発信機の処理には、気をつけておいた方がいい。足で踏み
  267. 潰したり、衝撃を与えたりすると、次の瞬間にはその足はなく
  268. なってるとおもってくれ。」 
  269.    タカシが注意した。呼吸が苦しそうだった。
  270.    「君たちは、ひどいことを平気でする。」
  271.   もう、彼は二人に注意を払う気はないようだった。
  272. シールドから見える砂の地形を食い入るように、見ているだけ
  273. だ。ショックガンも、座席に放り出して、手に取ろうとしなか
  274. った。
  275.   ダンが座席の下の工具箱をタカシに気づかれないように引き
  276. 出そうとしていた。非常用のデリンジャーが入っているはずだ。
  277. 鉛の玉の撃ちだされる古い武器だ。
  278.     
  279.  「トチョウ遺跡につれていってあげる。だから、もう、私た
  280. ちの邪魔はしないで。」
  281.  イザベルはタカシに約束した。
  282.  「君は適応したんだから、追われないはずだ。ヒロ2001
  283. のことは、思い出さない方がいい。」
  284.   タカシはほっとしたのか、彼女に力なく微笑んだ。
  285.  「何か、ひどいめにあったのね。安心して。」
  286.   彼女はダンの肩にそっと手を触れ、デリンジャーを片づけ
  287. るように合図した。
  288.  「連れていってあげるから。」
  289.   しぶしぶ、ダンはそれをシートの下に隠した。
  290.     
  291.   数十分後、彼は、トチョウ遺跡の見えるあたりで、チュー
  292. ブカーを飛び降りた。
  293.  彼の両肩のあたりから、透明な光が斜め上に、放出され、
  294. ゆっくりと全身をつつんで、彼を地面に降ろした。
  295.   「天使の羽みたいね。」
  296.   「簡易パラシュートだよ。磁場フィールドに当たって、パ
  297. ラシュートの一部が燃えただけさ。」
  298.    ダンは乱暴にハッチを締めて、方向を変えた。
  299.   「彼には羽があったのね。」
  300.    夢をみるように、ケイーイザベルはタカシの走る姿を見て
  301. いた。
  302.