ハード・ディスクのトラブルに役立つ ディスク・ユーティリティー


 突然ハード・ディスクがデスクトップから消えた, 誤ってハード・ディスクにあるファイルを 消してしまったなど, ハード・ディスクがらみのトラブルに役立つのがディスク・ユーティリティーだ。  マック用のディスク・ユーティリティーといえば, 「The Norton Utilities for Macintosh」と「MacTools」が著名である。 この章では, 実際にハード・ディスクのトラブルが起こった場合にどう対処すればよいかを , この2本のソフトを 比較しながら解説する。
(北谷 一人)




 ハード・ディスク関連のトラブルを 未然に防ぐには, まず故障の少ないハード・ディスクを 選択し, それを 安全で最新のシステム・ソフトウエア上で運用することが基本である。 しかし時には, それでも不意の事故や原因不明の問題が起きることがある。 そのためのソフトウエア的な解決方法は2つある。 1つはバックアップであり, もう1つはディスク・ユーティリティーによる保全である。 ただし1つ断っておきたいのは, 残念ではあるが最新のディスク・ユーティリティーを 持ってしてもデータは元に戻らないことがある。 バックアップに勝るデータ保全はないことを , 心得てほしい。


簡便なNUM, 細かな設定が可能なMacTools

 マックのディスク・ユーティリティーは, 乱立の時代から2大勢力時代に突入した。 今回取り上げる, 「The Norton Utilities for Macintosh 3.1英語版」(以下NUM)と 「MacTools3.0日本語版」(以下MacTools)である(表5)。 従来は異なったメーカーの製品であった2本だが, 今では1つのメーカーの製品になった。  現在はまだ方向性の違いは見えないが, よりシンプルで簡便なNUMと, 多くのカスタマイズとより細かな設定のMacToolsという分け方はできる。 しかし最終的には, ボリュームとデータのより確実な保全を ソフトウエアで実現するという目的は同じであり, この分野でよりよい競合を 望みたい。
 NUMとMacToolsのいずれも多くのファイルで構成されているが, 今回はセキュリティーというテーマなので, ディスク診断ツール(ハード・ディスク全体の問題の把握と保全), ファイル復活ツール(データの保全)を 中心に解説する。 またディスク最適化ツール(より高速で快適なハード・ディスクを 実現する)も取り上げる。


ディスク診断ツールの操作は簡単

 ディスク診断ツールは, ディスク・ユーティリティーでは基本中の基本ツールである。 NUMではDisk Doctor, MacToolsではDiskFixと呼ばれるツールが該当する。  ディスク診断ツールは, 例えばハード・ディスクから起動できなくなった, マウントできなくなったなど何か問題が発生したときその原因を 探すために真っ先に使用する。 このツールを 起動すると, 後はソフトが自動的に問題を 解決したり, 自動では解決できない場合でも対処法を 指示する。
 まずNUMだが, 全体の操作性は起動してボタンを 押すだけという簡便さである。 Disk Doctorでは解決できないような問題を 検出した場合には, Volume Recoverという別ツールの起動を うながされる。 Volume Recoverは, 後述のFile Saverが保存しているデータを 使ってボリュームを 復元するツールである。 ただし, Volume Recoverでは, トラブル直前の状態に復帰させるのは難しく, 問題自体もハード・ディスク全体にかかるものである。 このため, 復元する際の危険度は増している(図14)

   図14 Nortonの ハード・ディスク診断/修復ツールの DiskDoctorと Volume Recover

 MacToolsも, 基本的にボタンを 押せば診断を 実行する。 (図15)。 NUMとの違いは, DiskFixではVolume Recoverに相当する機能がない点である。 しかしVolume Recoverで復活できる確率は低いし, Volume Recoverで完全に復活できるものはDiskFixでも完全に復活できる可能性が高い。

   図15 MacToolsの ディスク診断/修復ツール DiskFix


ファイル復活を 考慮し機能拡張を 組み込む

 ファイル復活ツールは, ディスク診断ツールのように単純な仕組みではない。 消去したファイルの情報を 記録する機能拡張, それを 復活するツール, さらに復活させたファイルを 修復するツールが必要になる。
 NUMでは, FileSaver, UnEraseの2つ, MacToolsではTrash Back, Undelete, FileFixの3つが必要になる。
 NUMの簡便な操作性は, ファイル復活作業時でも生きている(図16)。 実際の作業は, まずNUMを 起動しUnEraseを 選択する。 復活させたいファイルのあるハード・ディスクを 選択しSearchボタンを 押す。 消去されたファイルのリストが表示されるので, 目的ファイルを 選択して「Recover」を 押せばよい。 ただしリストでRecoverabilityが100%のもの以外は, 属性, 名前, 大きさ, 位置の順で情報がどれか欠けている。 大きさや位置が欠けていてはファイルとして復活させる価値はないが, 名前や属性が欠けていてもファイルのデータ部分が使い物になる場合がある。 特にデータがTextやPICTなど汎用性のあるものであれば復活させる価値が高いし, また復活させるファイルがあらかじめ分かっていれば, 属性, 名前が分からなくても問題はない。 このため, View ContentsやGet Infoで確認しておくのがよい。

   図16 Nortonの ファイル復活ツール UnErase。 FileSaverをきちんと 組み込んでおけば, ファイル復活の確率が高まる

 ここで重要な役割を しているのが, NUMインストール時に導入されるFileSaverというコントロールパネルである。 FileSaverは, ファイルの復活の情報を 逐次ディスクに書き込み, さらにファイルのFinder上のコメントの保護や 根幹的なボリュームの保全情報も 記録している。 FileSaverのないNUMのハード・ディスク保護能力は著しく落ちてしまうので, 注意が必要だ。
 MacToolsでファイルを 復活させたいときは, TrashBackが機能拡張としてインストールされている場合, Finderのメニュー・バーにある「特別」メニューからTrashBackを 選び, ボリューム/フォルダ/ファイルを 選択すればよい。 特別なアプリケーションは不要である。
 TrashBackがないか, TrashBackでは復活できない場合は, アプリケーションであるUndeleteを 起動する(図17)。 首尾よく目的のファイルがあった場合は, 実際に復活させてみて使用に堪え得るか確認する。 問題があった場合は, 今度はFileFixを 起動しファイルの修復を 試みる。 MacToolsは, 特にMicrosoft WordとExcelファイルの復活機能がある。

   図17 MacToolsの ファイル復活ツール Undelete


リスクも大きいディスク最適化ツール

 ファイルの書き込みや消去を 何度も繰り返していると, ハード・ディスク中に小さな空き部分ができたり, ファイルの中身がハード・ディスクの異なった領域に書かれる。 この場合ハード・ディスクのヘッドが大きく動くため, アクセスが遅くなる。 この現象(フラグメント, 断片化)に対処するため, 同じファイルを 連続した場所に詰めて書き直す(再配置する)ことを 最適化と呼ぶ。 NUMではSpeed Disk(図18), MacToolsではOptimizer(図19)である。

   図18 NUMの ディスク最適化ソフト Speed Disk

   図19 MacToolsの ディスク最適化ソフト Optimizer

 著者の体験では, フラグメンテーションが起きただけで 非常に遅くなったハード・ディスクに 出会ったことはないが, きちんとファイルが並んだハード・ディスクは 精神衛生上も気持ちが良いものであることも確かだ。
 気を 付けたいのは, 最適化ツールを 滅多やたらに使いすぎないこと。 ディスク最適化中に, もし運悪くシステム・エラーや停電が起こった場合は, ハード・ディスクに起こる事故のうちで 最悪のものになる可能性があることも 肝に銘じてほしい。
 Speed Diskは, NUMの中でも最も簡便なもので, 起動ディスクから起ち上げてOptimizeボタンを クリックするだけである。
MacToolsのOptimizerは, ファイルの移動先を 選択できるほか, ファイルの配置やその優先度を 変更できる。 終了後のアプリケーションの振舞い(終了する/リスタート/終了を 知らせる)まで規定できる。 どちらのディスク最適化ツールでも, オプションでメディアのBad Sector(不正領域)を 見つけ出してくれる。 このオプションはハード・ディスクを すべてチェックするために多大な時間が掛かるが, 安全な最適化を 行うには1度は実行しておくのがよい。


トラブルが起きたらどうするか

 ハード・ディスクに何らかの問題が起こった場合, 事故なのか人為的な原因なのか, まずその原因を 考えることが急務である。 さらに現状の把握も大切だ。 ハード・ディスクは全く起動出来ないのか, 途中まで起ち上がるのか, 起動できない場合は, フロッピー・ディスクやCD-ROMからは起動できるかどうか。 ここまでの状況把握で対処策は決まる。 図20に問題と解決の手段を まとめてみた。

   図20 ハード・ディスクのトラブル対処法

 あわててメーカーのユーザー・サポートに電話する前に, 試してみるべき作業が必ずある。 ただし, これが絶対というわけではない。 この特集を 注意深く読んで, 各人最適な方法を 構築してほしい。 大切なデータやシステムを 守るのは, ユーザー自身だからである。




データ破壊を 防ぐハード・ディスク運用

 重要な点は, 安全なハード・ディスクの選択とシステム作りの2点。 あとは, ディスク・ユーティリティーで保全すればよい。  データを 守るには, 丈夫で安全なハード・ディスクを 選ぶのが基本。 これは, 何を 基準にしたらよいのか。 一般には目安として, メーカー保証値ではあるがMTBF(Mean Time Between Failure, 平均故障時間)がある。 ただしMTBFはその性格上, 異なるメーカー間で比較はできないし, 少々の差では同一メーカーでも一概にどちらが良いとは言えない。 むしろ, ユーザーの多くに評判の良い製品を 選ぶ方が確実だ。 一般的に新しい製品は危険で, 数多く生産され安定したロットで供給されるような発売後半年以上たった製品が, 価格的もより安く, メーカーの自主的な改良もあり安全といえる。
 マックほど簡単にシステムを カスタマイズできるコンピューターはない。 ただし実際の運用で不要な機能拡張ファイルはないだろうか。 現在の漢字Talk7に付属の機能拡張やコントロールパネルだけを 使用し, 市販アプリケーションを 通常考えられる範囲で使用しているなら, システム・エラーは起こらない(はずである)。 不要(無用)な機能拡張やコントロールパネルを , とにかく使用しないようにすれば, 強制的なリスタートというハード・ディスクに一番良くない負担は避けられる。
 また基本となるシステムも, ハードウエアが許すなら 一番新しい物を使用する。 システムもいくつかの問題点が解決されているからだ。 特にSystem Enablerは最新のものを 使用することが望ましい。