図書カード
青空文庫
Blue Sky Collection
No.
著者名 ラティガン、テレンス(テレンス・ラティガン Terence Mervyn Rattigan)
訳者名 能美武功
書籍名 銘々のテーブル(The Separate Tables)
入力者名 能美武功

作品について: 一幕物二つ、即ち「窓際のテーブル」と「七番目のテーブル」から成り立っている。
「窓際のテーブル」は、左翼系新聞のコラムを書いて生活しているジョン・マルコムとその昔の美人妻、アン・シャンクランドの話。ジョンは妻に暴力をふるった為、警察沙汰になり、将来首相にもと期待されていた地位を棒に振ってしまい、半分老人ホームのようなしがないホテルで暮らしている。ホテルの支配人ミス・クーパーに同情され、二人は親しくなっているが、結婚には踏み切れない。そこに偶々、昔の妻アンがやって来て、よりが戻りそうになるが……という話。
「七番目のテーブル」は、それから一年半後の夏、同じホテルでの話。気位の高いレイルトン・ベル夫人の娘シビルは精神的に弱いため結婚も出来ずオールド・ミスになっている。しかし何故か、退役軍人ポロック少佐とはうまがあう。少佐も気の弱いところがあるからである。母親は二人が口をききあうのも苦々しく思っている。少佐はある時、映画館で痴漢まがいの行為をし、警察沙汰になり新聞にも載ってしまう。ホテルの長期滞在客が集まり、このいかさま少佐を追い出すべきかどうか議論し、ついに……という話。
 第一と第二の主人公、女主人公は同じ役者が演じる。つまり、荒々しく、すぐ大声で怒鳴るジョンと、常に嘘を語り、おどおどしながら暮らしているポロックを、同一男優が、美人で勝気で、これ見よがしに自分の美貌を誇るファッション・モデルのアンと、人前に出るのも怖がる内気なシビルを、同一女優が演じる。

 ラティガンは最初、原稿を興行主ミッチェルとローレンス・オリヴィエに送った。二人とも非常に気にいる。オリヴィエは妻のヴィヴィアンと主役をやりたいので、18箇月待ってくれ、と書く。リチャード三世の映画化の仕事が入っていたからである。ラティガンは、それならロンドン公演が終わった、ニューヨーク公演で頼む、と返事する。
 1954年7月半ば、検閲を受ける為、ロード・チェンバレンに提出。二つとも台詞のよさを絶賛される('impecable' taste in dialogue)。特に二番目のものは「名作('a little masterpiece')」であると。
 演出は一時不仲であったピーター・グレンビルが受け持った。この時期にはよりが戻っていたのである。二人はエリック・ポートマンを主役を当てることににすぐ意見が一致し、ポートマンもすぐ承諾した。女主人公は、デイヴィッド・リーンの新しい妻ケイ・ウォルシュに決まった。しかし二週間のリハーサルで、ラティガンもグレンヴィルも、ウォルシュでは駄目だと気づく。すぐ代りを捜さねばならない。ラティガンに迷いはなかった。ローレンス・ハーヴェイの妻マーガレット・レイトンである。ラティガンはもう以前から、レイトンを役者として尊敬していた。レイトンは31歳、アン、シビル、どちらにもぴったりである。レイトンは二週間以上考慮した結果、地方巡業に出ることを承諾した。彼女がラティガンの芝居に出るのはこれが初めてである。
 1954年9月22日セント・ジェイムズ劇場で初日が行われた。批評家は二番目の話に重点を置いた。その最後の場面、ポロックがホテルの住人から許され、名誉を回復する点にである。サンデー・タイムズのハロルド・ホブソンは書いた。「第二の芝居はラティガンの傑作である。ここで彼は、彼独特のペーソス、ユーモア、そして完璧な英語で……最近他人を簡単に誹謗し、それがまた容易に絶望へと導かれる風潮に抗して……取り返しのつかない不幸、致命傷は、存在しないのだ、と強く主張してくれている」と。
 すべての批評家が褒めた訳ではない。ジョン・バーバーは、「中流の人々の孤独を顕微鏡的視野で眺めた」ことは認めるが、二つの芝居とも、傷のある('flawed')作品である」と。
 オブザーバーのケネス・タイナンは、ラティガンを終始貶しまくった男であるが、「少佐の痴漢行為は、単なるいちゃいちゃ('flirtation')ですまないものがあると思う」と当てこすっている。
 タイナンの批評が出た翌日、ラティガンはニューヨークのフリードマンに電報を打った。「日曜の新聞はタイナンを除いていづれも良好。客の入りはよく、金銭的には非常に潤う様子」と。

 なお、映画は日本での題名「旅路」。ジョンをバート・ランカスター、アンをリタ・ヘイワース、ポロックをデイヴィッド・ニヴェン、シビルをデボラ・カーが演じている。この映画でニヴェンはオスカー主演男優賞を、またホテルの女支配人クーパーを演じたウェンディー・ヒラーがオスカー助演女優賞を得た。

 以下、映画化されたものに対する能美の感想。
 映画は二つの話を一つに纏め、同時進行にしているため、原作を知っているものには面白くない。特に原作では、アンが「ホテルに来たのは偶然である」と強く言い張り、それが露見した時、ジョンが怒る。映画では、故意にやって来たことは最初からアンは認めており、その目的が、ジョンとクーパーとの間を裂かんが為であると、ジョンが邪推し怒る。映画のこの筋立ては面白くない。

(この「銘々のテーブル」は726回のロングランであった。ニューヨークでの公演もポートマンとレイトン。オリヴィエ夫妻の登場はなかった。)
(St. Martin's Press社, Geoffrey Wansell 著 Terence Rattigan による。能美武功 平成11年6月2日記)
著者について: Terence Mervyn Rattigan (1911-1977)イギリスの劇作家。オックスフォード大学に学んで外交官を志したが、劇作に興味をもって学業を中断。喜劇「涙なしのフランス語」(1936)が処女作。ここに父親との関係、学業を中断した経緯、などが盛り込まれている。「シルヴィアって誰」(1950)にも彼の青年期の親子関係が書かれていて、面白い。

 劇団「昴−三百人劇場」では時々ラティガンのものが演じられている。現在(平成10年)までに次のものあり。
昭和54年 海は青く深く(Deep Blue Sea)臼井善隆訳 樋口昌弘演出 新村礼子 山口哲也 久保田民絵 鳳八千代 西本裕之 加藤和夫 北村総一郎 吉井公一
昭和58年 銘々のテーブル(Separate Tables)小田島雄志訳 中西由美演出 森脇操 山本勝彦
昭和60年9月 ウィンズローボーイ(Winslow Boy)福田逸訳・演出 簗正昭 久米明 北島マヤ 山口嘉三 
平成1年2月 海は青く深く(Deep Blue Sea)臼井善隆訳 樋口昌弘演出 中山有子 知念寛子 松下丈司 
平成1年7月 銘々のテーブル(Separate Tables)小田島雄志訳 樋口昌弘演出 原聖子 中山有子 松下丈司
平成5年 銘々のテーブル(Separate Tables)小田島雄志訳 中西由美演出 信正小百合 石田博英 松谷彼哉

 商業演劇で「王子と踊り子(Sleeping Prince)」(権謀術数に明け暮れるカルパチアの王が、アメリカの踊り子と知りあい、愛に生きる生活に目覚めるまで)が、ミュージカルとして演じられた。(太地真央 益田喜頓 他)

 尚、映画化されたものは下記。
1.銘々のテーブル(日本での題名「旅路」)バート・ランカスター、リタ・ヘイワース、デイヴィッド・ニヴェン、デボラ・カー主演
2.眠りの森の王子(日本での題名「王子と踊り子」)ローレンス・オリヴィエ、マリリン・モンロー主演
3.シルヴィアって誰(原題 The Man who loved redheads) モイラ・シェイラ主演
(平成11年5月17日 能美武功 記)


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