Be Interview

[ジャン・ルイ・ガセーINTERVIEW]


    柴田文彦(以下柴田)
以前にお話をうかがったときには、まだBeBoxの製造を中止するということを発表される前でした。そこで、まず始めにBeBox以後のビジョンのようなものをお聞かせ願えますか。少しあいまいな質問で申し訳ありませんが。

ジャン・ルイ・ガセー(Be社 CEO)

1990年にBe社を創設。
元はApple社製品開発担当社長で、
Mac IIからMac IIfxまでの開発を手懸けたことでMacintoshユーザーにはなじみが深い。

  ジャン・ルイ・ガセー(以下JLG)
構いませんよ。まず、最近起こったことを考えてみましょう。それは、安価で高性能な、とても良くできたハードウェアの登場です。2つ以上のプロセッサを備えたものも珍しくなく、 PowerComputingDaystarMotorolaAppleといったメーカーから出ています。見方によっては、このような状況に対して我々はわずかながら、貢献したといえるかもしれません。というのも、BeBox以前には、みんなマルチプロセッサのマシンを世に出すことを躊躇していたからです。その理由は、それを活かすことのできるOSが存在しなかったからに他なりません。そこにBeOSの存在意義があります。
 日本語ではどのように言うのか知りませんが、それが一種の好循環を生んだのです。1つの悪いことが、次々に悪いことを起こす悪循環の逆ですね。我々がBeOSによって、この動きのきっかけを作ったということです。 我々は、我々のビジネスパートナーとは競合するべきではないという結論に達したのです。この点でAppleを見てみましょう。彼らはハードウェアとソフトウェア、両方のビジネスをしています。そして、ハードウェアのクローンメーカーにOSをライセンスしているわけです。そのために、もし彼らがうまく行き過ぎると、それは問題であり、まったくうまくいかなくてもまた問題であるという、非常に難しい立場に立っています。
 これに対して我々は非常に明快です。もし私たちとビジネスをしたければ、何をするべきかは明白です。我々はOSだけを扱っているからです。私たちはBeBoxというハードウェアを作ることは、ビジネスとしては中止しました。しかしそれは素晴らしい経験でしたし、必要なことだったのです。ちょうどスペースシャトルの大きな2本のブースターロケットのように、BeOSを軌道に乗せることに成功したからです。 もしまた機会があれば、やるかもしれませんが、今はソフトウェアに集中する段階なのです。それによって、非常に多くのハードウェアの上でBeOSを動作させるという機会を得たのです。これは、Beのデベロッパーに対しても、より広いビジネスの機会を提供することになったはずです。

  柴田
以前にあなたは、現状ではPowerPCに集中しているけれども、別のCPUへの移植も考えていないわけではないといったことをおっしゃったと記憶しています。たとえば、日本製のチップ、東芝日立の新しいチップなどはどうお考えですか。

JLG
いいですね。我々は、小さくて速いマルチメディア指向のOSを持っています。これまでに話をしてきたプロセッサのメーカーは、みんなこのようなOSに興味を持っています。 まずDVDを使う場合について考えてみましょう。DVDプレーヤには、マルチメディアの発達を促進する働きがあります。それは、WebTV、衛星放送、ケーブルTV、ホームシアタのように、リビングルームで使うアプリケーションとなりますが、従来のデスクトップマシン用のOSでは、せっかくの機能が制限されてしまいます。そこでは、我々の小さくて速く、信頼性の高いOSが有効です。 ええ、これまでに複数の日本のプロセッサーメーカーと話をしてきました。もちろん、アメリカや、韓国のメーカーも同様です。現時点では何が起こるか分かりませんが、数多くの機会があると思っています。そしてそれはとてもエキサイティングなものばかりです。

柴田
ということは、本当にメディアOSが必要とされているところには、BeOSを提供していくということですね。

JLG
そうです。それは、既存の組込み型OSがいくら優れていて効率的であっても、それをPowerPCの上で動かすことは現実的ではないからです。それらは、たとえばホンダシビック用には適していても、リビングルームで使うのには適当ではありません。それらはエンジンを制御するためのものであって、メディアを扱うものでありません。私たちは、速くて信頼性の高いメディア指向のOSを必要としているのです。

柴田
DVDの話が出たところで、これに関するBeOSの対応についてうかがいたいと思います。BeOSとしては、DVDの上に独自のフォーマットを作るのでしょうか、あるいは既存のフォーマットを利用するだけなのでしょうか。

JLG
それはなかなか興味深い質問ですね。というのも、フォーマットに関しては非常に幅広い議論があるからです。 まずオフィス市場では、マイクロソフトがフォーマットを支配しています。それは容易に変えることができません。それに対してメディアの世界では、フォーマットは別の人々によって規定されています。我々はそれをコントロールすることはできませんし、そうしたいとも思いません。我々は、このフォーマットの上にドキュメントを作成するだけです。ですから、BeOSとして特別なフォーマットを作るつもりはありません。 それが私たちがDVDに期待している理由でもあるわけですが、DVDに対する態度には大きく分けて2つあります。1つは、既存のメディア用のコンテンツをただDVD上に移植してくるというものです。これは、アメリカではシャベルウェアと呼ばれています。もう1つは、その新しいメディア用に、新しいコンテンツを作り出すことです。そのためには、高速で信頼性の高いアプリケーションが必要で、それに適したOSも不可欠というわけです。今回発表したように、BeOSはそのための条件を備えています。

 

ガセー氏と 柴田文彦氏

柴田
DVDに関連してもう1つお聞きします。今Macのハードウェア用にはMPEGのエンコードボードがほとんど無いようです。MPEGのデコードはソフトウェアで可能だとしても、エンコードをソフトウェアで行うのは、非常に時間のかかることだと思いますが、BeOSとしては、どのように対処しようと考えているのでしょうか。

JLG
現状はたしかにそうですね。しかし、我々には4プロセッサマシンがありますから、ソフトウェアエンコードでもなんとかなるかもしれません。 もちろん理論的には十分可能だとしても、パフォーマンスの問題は残るかもしれません。現状のコンピュータの問題は、プロセッサの技術がアーキテクチャの技術を遥かに追い抜いたところにあるということです。そのために、プロセッサがメモリやディスクやスクリーンにアクセスするためのデータパスが問題となっています。MPEGを扱う場合のメモリアクセスも問題となるでしょう。 いずれにせよ、残念ながら今は、それに対する良い答えは持ちあわせていません。

   
柴田
分かりました。ところで、以前に「Amiga 96」と書いたナンバープレートを見せてくれましたが、そのアミガは、結局Gatewayに買収されました。そして新しいマシンのCPUには、PowerPCを採用すると言われています。 PowerPC陣営にまた新しいプレーヤが加わったわけですが、これについてはどうお考えですか。

JLG
これに関してコメントするには、Gatewayがほんとうに何をするつもりなのかを、はっきりと知る必要があります。今はまだ状況を正確に分析するには時期尚早でしょう。しかし、PowerPCをより魅力的にする動きであれば、どんなことでも歓迎します。それによって我々にもより多くの機会が与えられると考えるからです。

 

BeDC会場風景

柴田
PowerPC用のOSが増えると、ユーザーの選択肢はMacOS、BeOS、あるいはアミガと増えるわけですね。それ自体は良いことなのでしょうが、その反面、ユーザーにとっては混乱の元にもなるのではないでしょうか。

JLG
おっしゃることは分かります。しかし、ユーザーは我々が考えているよりもずっと賢いということが、歴史的には証明されていると信じています。例えば私が、CDを買いに行ったとしましょう。そして、バッハの、そうですね、何かプレリュードを買おうとします。しかし、そこには異なる演奏者による多くのCDがあり、曲の解釈も異なっています。それを求める人にとって、多くの選択肢があることは良いことだと考えています。

柴田
あなたは、以前から一貫してBeOSはコンテンツのクリエータのためのものであって、その消費者のためのものでは無いとおっしゃっていますね。それでは、消費者の使うマシンとしては、どのようなものを想定されているのでしょうか。やはり既存のMacOSのようなデスクトップマシンなのでしょうか。それともゲームマシン、あるいはウェブブラウザのようなソフトウェアなのでしょうか。

   
JLG
うーん、これは非常に重要な質問です。まず例を挙げさせてください。まず、DVD用の音楽データを作りたいとします。そのための音楽データを編集するのにBeOSが使えます。この場合の最終的な消費者は、DVDプレーヤや、それを使ったホームシアタシステムということになります。次に、画像処理にBeOSを使う場合ですが、画像はウェブサーバーをはじめとして、ありとあらゆる場所で再生されます。ですから、ターゲットは世界中にあります。次にデジタルビデオですが、すでにFireWireを備えたSONYのDVカメラがあります。DVは、フレームレベルでの正確さがあり、BeOS上で編集して、また元のDVフォーマットに戻すこともできます。これで3つですね。そして4つめはネットスケープです。それが、オーディオであれ、ビデオであれ、あなたがBeOS上でコンテンツを作れば、それをBeOS上のネットスケープサーバーに置き、ブロードキャストすることができます。この場合は、BeOSはコンテンツの創作と、それをウェブ上にブロードキャストするという2役をこなします。

   
柴田
ということは、やはりスタンダードなフォーマットが重要なわけですね。それによって、ユーザーはどんなプレーヤーでも撰ぶことができますから。

JLG
その通りです。紙からTVスクリーンまで、どんなメディアでも良いのです。だからこそ、先にも述べたように、公開されたフォーマットを重要視しています。それは、一般的であり、フレキシブルだからです。それによって、常に主導権を握りたいと考えているマイクロソフトのような会社を恐れることなく、創造的であり続けることができるのです。

 
  柴田
次にUIについてうかがいたいのですが、今回のDR9では、またUIが変わりました。これは私の想像ですが、BeではいまだにUIに関する様々な問題に対して、答えを探っているように見えます。一般的に、OSのUIに対する態度には、大きく2つのアプローチがあるように思います。1つは、スタンダードなガイドラインのようなものを設け、アプリケーションをそれに厳格に従わせるやり方です。そしてもう1つは、各アプリケーションに自由なUIの提供を許すというものです。これは、2つの極端な場合かもしれませんが、あなたはUIに関してどうお考えでしょうか。

JLG
そうですね、確かに我々はUIを変更し続けています。もちろん、意図的にやっているわけですが、それによって色々な実験をしているのです。われわれは、UIに関してあまり固定的にはなりたくありません。私が、以前の会社(Apple)にいたころに学んだのは、ガイドラインを提示することは良いことだとしても、あまり厳しすぎると、十分な実験もできず、結局創造性も制限されてしまうということです。 しかし、だからといって混乱を生じたり、無秩序になってしまっては困ります。わたしは、いわば「やや無秩序側にコントロールされている」という状態が良いのではないかと思います。 例えば、メタツールがあります。これはMacのUIのガイドラインを破っていますが、同時に非常に創造的です。つまり、創造性は、標準を打ち破ることから生まれる場合が多いのです。このようなことがBeOS上でも起こることを期待しています。 それに、デスクトップメタファがマルチメディアにとって最適かどうかについても疑う余地があると考えています。というわけで、色々実験の成果に期待してます。 私はUIの専門家ではありませんが、世の中には、UIに関して才能を持ったデザイナがたくさんいます。私は、彼らのすることを尊重したいのです。私たちは、OSとそのAPIを理解しているつもりですが、UIに関しての理解は限られているでしょうから。

柴田文彦著作(BNN)

  柴田
ということは、BeOSは、多くのデザイナに実験の場を提供するだけの寛容さを備えているということですね。

JLG
その通りです。そしてそれをながめているのは楽しいものですし、ビジネスとしても正しいものだと思います。

柴田
それでは、最後の質問にしたいと思いますが、今後のBeOSのロードマップ、あるいはリリーススケジュールのようなものを教えてください。

JLG
わかりました。現在のバージョンがデベロッパの手に渡ってからしばらくしたら、そのフィードバックを反映したバージョンを作ります。おそらく6月の終わりごろには、PowerComputing、そしてたぶんMotorolaのマシンに搭載して出荷されるだろうと思います。そして、今年の夏以降には無償でダウンロードできるよう、ウェブ上に乗せるつもりです。 私たちはまだ若い会社ですから、まず自分たちのできることを証明しなければなりません。そして謙虚な態度で、早い時期にこのOSを十分テストしてもらいたいのです。そのためには、お金は要求したくありません。 そして今年のComdexで正式に発表します。その後は、98年に間に合うようにほんとうの製品版を用意するということでしょうか。申し訳ないのですが、現時点では決まっていないことも多く、はっきりしたことは申し上げられないのです。

  柴田
多言語対応、あるいは国際化バージョンについてはどうでしょう。

JLG
その重要性は疑う余地がありません。そして今回発表したように、DR9はUnicodeに対応しました。これからまだテストが必要ですが、それは社外ですることになるでしょう。このあたりにも、日本語を読んだり書いたりできる人は多いのです。我々は誤りを直すのにやぶさかではありません。そして、これに関しては非常に楽観的です。日本のユーザーにも期待していただいて構いません。

柴田
それでは、これで質問も終わりです。どうもありがとうございました。最後に写真を撮らせてていただきたいのですが。

JLG
喜んで。私もまた近いうちに日本に行くこともあるでしょう。これからもよろしくお願いします。

-おわり-


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