Be Interview

[樋口監督PHOTO] [樋口真嗣INTERVIEW]

PROFILE

樋口真嗣(ひぐちしんじ)
1965年9月22日生まれ。東京都出身。'84年「ゴジラ」の特殊造形に携わり、'86年ビデオ作品「八岐大蛇の逆襲」で特技監督デビュー。以降「ナインライブス」「ミカドロイド」「未来の思い出/ラストクリスマス」などの特技監督として活躍。
 また「オネアミスの翼」「不思議の海のナディア」「ジャイアントロボ」「マクロスプラス」「新世紀エヴァンゲリオン」などのアニメ作品にも参加。


Q・最近どんなマシンを使っていますか?

 最近マッキントッシュ(以下マック)からウィンテル陣営に乗り換えたんですよ。ノートはずっと180Cを使っていたんです。多分ですね、日本人で一番最初に180Cを買った男なんです。
 IIciを初めて買って、当時は使っていたんですけど、アメリカに半年以上いくことになって、持っていくのも面倒臭いし、カラ−のパワーブックが出るらしいという噂を聞いたもので、60万で買ったIIciを20万で売ってアメリカに行ったらまだ165Cしか出ていなかったんですね。STN液晶のものなので『あんなのいるか〜!』と思っていたら、もうじききれいなTFT液晶のものが出るらしいからということで待っていたんです。そろそろ出るということを雑誌で読んで、毎日のように店に電話して、来たかどうか確認していたんですよ。ついに入荷したというんで、『今から行くから待っていてくれ』といってパア−ッと車飛ばして、即金で買ったんですよ。
 その当時で4300ドル(当時のレ−トは1ドル100円前後)くらいでしたね。向こうだとオンボ−ドで4メガじゃないですか、それでメモリ−を増設して、それでしばらくはメインとしてそれを使っていたんです。けど、月日は流れてそんなものは段々古くなってくるじゃないですか、古くなってきたところで去年ぐらいから段々起動しなくなってきたんですよ。バッテリ−が切れたのかと思ってバッテリ−を取り替えても直らない。ちょうどその頃、日本NCRとかその場で直してくれるとかいうクイックガレ−ジが登場して、そこに持っていったんですよ。
[樋口監督インタビューPHOTO]  「これボ−ドいかれています」と言われて「これで直るんだったらまあちょっと高いけどいいや」とか思って、4万ぐらいするマザ−ボ−ドを総取り替えしたんです。そしたら半年ぐらいでまた同じ症状になったんですよ。要は構造的な欠陥があっんです。購入当初、10メガのメモリ−を増設して14メガにしたじゃないですか。まあそれが精一杯なんですけど、その10メガのメモリ−は厚さとしてはぎりぎりなんですけど、それがキ−ボ−ドの真裏にきてキ−ボ−ド叩くことによってちょっとだけ触れてしまうらしいんです。それを別のクイックガレ−ジのところに持っていったら、そこからなかなかいいキャラクターの兄貴がでてきて、「これはだめですよ」って早口で言われて、「これはだめですね。お客さん、180C以前に壊れたことあります?」って聞かれて、今みたいなことを話して「私これで1000台以上直しましたから、マザ−ボ−ド取り替えてもメモリ−はもう使えませんからね」っていわれて、『ええ−、今時4メガのメモリ−で何ができるんだ』ってまあそんなことで可愛さ余って憎さ百倍、堪忍袋の緒がブチ切れてしまいまして、で、とりあえずウインドウズ系のノートに乗り換えたんですよ。まあもうじきXデ−が来ることでしょうし、ウィンドウズに慣らしておく必要もあるだろうと云うことで。
 一方、今まで師と仰いできたコアなマック系の人たちがいるんですが、その人たちなんか、これからはBeOSだよとか言ってるけれども、アプリケーションはどうするんだ!(笑い)

Q・21世紀のデジタルというものが変わっていくと思われますか?

 変わっていくのかな?

Q・ではまず、Beと聞いてなにが不安ですか?

 Beというのが良く分かっていないんですけど。画面も見ていないし。いいらしいという評判しか聞いていないけど。でも、本もなんだかんだ言っているし。でもやっぱりよくわかんないです。

Q・Macでは何を使われていたんですか?

 主にアドビの三大製品を。プレミアは使ってなかったんですけど、フォトショップ、イラストレ−タ−、アフターエフェクツです。実はMACのデスクトップは未だに家で使っているんです。

Q・環境はどんな感じなんですか?

 本番用は家ではやらない、っていうか出来ないんです。家のヤツは遅いもので、早いやつでやらないと発狂しちゃいますから。家では絵コンテの突っ込んだ指示用のサムネイルをつくるとか、タイトルのゲラとか軽いものばかりです。それ以上重い仕事となるとツライので、専門の方にやってもらってます。

Q・絵コンテはMacで創られているんですか?

 絵コンテは普通に手書きです。素材とかをスキャニングして、それを最終的にどのように合成するかとかを。フォトショップを使っていました。

Q・これから出てくる監督さんとかは、MacとかBeとかに触れる機会が増えてくると思うんですけど。その辺はいかがですか?

 どうでしょう?ちなみに今度仕事で導入するハードはほとんどNTマシンの予定です。

Q・逆にいうと、なぜWindows側に移っていかれたんですか?

 最初に話したパワーブックの代わりを探していると、もうMACで泣きを見るのはイヤだってキモチが強くなってきて、試しにMAC以外の売場に足を踏み入れてみたら、別天地が広がっていて、ハードもソフトも選択肢多いじゃないですか。それに云ってることメチャメチャですが、今のノート、DECののハイノートは形で撰びましたから。一目惚れです。ノートの場合、これを持ち歩きたいか持ち歩きたくないか、そこが一番重要なんです。ただ、アフターエフェクツのNT版ってまだ出ていないんで、デスクトップはMACのままです。早く出して欲しいんですけれど、どうなったんでしょ?

Q・逆にWindows使っていてMacに戻りたいとか思ったことはありますか?

 時々ウィンドウのリサイズボタンを押したつもりでクローズしちゃったりします。そういう時に思い出しますね、別れた女みたいですけれども。デスクトップはパワ−コンピュ−ティングの互換機にBeOSを載せるというのがこれからいいんじゃないかと(笑い)。友達がそう言っているんですけどね。

Q・アミ−ガとかは使われなかったんですか?

 はい。

Q・では、CGとか加工するようになった入り口はMacですね。

 そうですね。

Q・今、現場で一番欲しいソフトはありますか?

 あんまりないですね。私は現状で充分です。アフタ−エフェクツもそんなに使いこなしているわけじゃないし、それだったら回りの人間の方が使いこなしているわけだから、むしろそういう人たちの方が不満とかはあるんじゃないかな。未だに追い付くのが精一杯ですから。あ、だとしたらNT版のアフターエフェクツです。やっぱり。

Q・樋口さんの方では今の環境で満足しているということですか?

 まあ、みんなやっていますよね。上を見ればキリがないし。

[樋口監督インタビューPHOTO] Q・CGはお好きなんですか?

 好きですよ。

Q。ミニチュアの方が好きだとか?

 まあ、現場が好きですから。でもやっぱり自由度というか、両方とも自由度はあるんですけど、一回創ってしまえばある程度のことなら力技で創ってしまえるというか。要は約束ごとじゃないですか。映像ってすべて、ここからここまではセットですよとか、そういうことって、あとは一つは怪獣映画であるとか、予算がなんぼであるとか、まあそういう枠組みに合わせて好き嫌いは変わっちゃうんです。主体性ないみたいに聞こえますけれども本人的には首尾一貫してるんです。

Q・この前、河崎実さんとお話しして、怪獣ブ−スカを紐でとばしたと聞いて驚いたんですけど。

 そういった意味でいえば技法に対するフェティシズムってないですよ。あんまりないです。イメ−ジどおりにつくれればいいんで、目的のためには手段を選ばないという感じです。目的を達成するために何を使えるかというその時の状況にもよりますよね。そういった意味でいうと、デジタル関連はここ3〜4年で環境としては良くなりましたから。

Q・特撮や映像に憧れて映画界に入ってきたのが樋口さんや河崎さんだったように、樋口さんを見て憧れて入ってくる若者がいると思うんです。もし、樋口さんと一緒に仕事をしたいという若者がいたら、コンピュ−タを絡めてどんなところから入ってもらいたいですか?

 やっぱりデ−タのバックアップとかファイルの管理とかそういったところからですか?(笑い)
 良くわからないですけど、結局最初からカットを創るなんていう仕事は与えられないじゃないですか。やっぱり最初はその中の構成員になることが条件であって、その中でいかに自分をプレゼンテ−ションしていくかなんですよ。二等兵が元帥に意見をするみたいにですね、僭越ながら意見具申といった。

Q・樋口さんは始めデザイナ−で入ったのに、ガメラの時もなぜか特技監督になっていたと聞きましたが、そのコツは?

 やりたい、いややらせて下さいといったんです。
 「腰は低く、押しは強く」ですね。これ最近周りで流行っているんですよ。

Q・クリエ−タからソフトを創るという発想は日本では少ないと思うんです。アメリカ映画の場合、爆発のシ−ンが欲しいという希望により、ル−カスなりデジタルドメインがパーティクルを創っていますよね。それに対して日本の場合、あのソフトでパ−ティクルができるらしいよって創りますよね?そういうコンピュ−タメ−カとかとの連係っていうのはないんですか?

 そりゃ、あればいいですよ。
 ただ、すごく時間がかかるじゃないですか、で、しかもそれがあまりにも画期的でないかぎりは今までの組み合わせでやっていた方がいい。どうしても較べちゃえば貧乏という前提があって、今まで限られたものの中でどうするかというところがあって、言い換えれば、「冷蔵庫の余りモノの中でいかにいい料理を作るのか」という仕事なんです。それはなぜかというと、我々に与えられたものは30分で創らなければ、みんなお腹がすいて暴動が起きるとか、あるいは用意されているのがその中のものでしかないとか、そういうことですから。そうすると、アメリカのを見ているとなんて素晴らしい環境なんだとか思いますけどね。逆に「そこまではまあいいや」と思いますし。それをやり始めちゃうと引っ込みがつかなくなりますからね。プログラムの開発から入っていくと、ひっこみはつかないのが恐いですね。でも、本当は創りたいです。

Q・樋口さんがめざす映像というものは?

 まあ、体感的なものであったりするんですけど、「生」な感じということですかね。それをCGで創りたいといったところで足りないのが、何かなって思うとプラグインだったりするんですが。そういった時BeOSがとかいわれると、正直「え〜?またそこから始めなきゃイケナイの?」みたいなものがあるんですよ。

Q・常々、映像の方から出てくるソフトが日本では少ないと思っていたんですよ。

 まあ、需要が少ないですからね。で、実は今創ろうとしているプラグインがあるんですけどね。レンズのディスト−ションのプラグインなんですが、広角のレンズであれば画面の隅に行くほどどんどんゆがむじゃないですか。ところが3DのCGであれをやろうと思ったらそれは出来ないんですよね、正確に画角通りに計算しちゃって。二次元的には出来るんですけど、3Dの空間でそれをやろうとしたらえらいことになってしまう。それをなんとかしたいですね。今は実写の中で違和感なく溶け込むもの以外にあんまり興味がないんで。

Q・最近みた日本オリジナルのプラグインはゼアス2のスペシューム光線ですね。

 あれはもう素晴らしいですね。あれってゴルゴ13の大村先生がやったんですよね。

Q・ガメラはお好きなんですか? 『ガメラ2』の時に逃げようかと思ったというコメントを拝見したんですが。

 逃げようというか、やりたくないなと思ったんですけども。今はないですね。自分がやったガメラに対してはめちゃくちゃ愛着はありますから。初期のにはあまり愛着ないですけど。愛着のある人にとっては、なんで四本足で歩かないんだとか怒られましたけど、「歩けるか?今時」って思うんですけどね。膝ついて歩けるかって感じですよね。

Q・SFXって今まで見せるためにやっていたのが、だんだん見せないためにやっているのが増えてきたじゃないですか?

[樋口監督インタビューPHOTO]
 でもそれって昔からあったんですよ。気付かないだけであって、『フォレストガンプ』はああいう仕掛けを大々的にバラしただけでしょう。昔から、「市民ケーン」や「ベンハ−」の頃からあるんですから。ただ、日本の映画ではなかなかやらしてもらえないんですよ。お金がないからそういう所に、使うんであればものすごく厳しい条件があるじゃないですか。仮に予算があっても通常のようにホイホイ撮れるものではないですから、すごく綿密な計画をもってやらなければいけないわけですよ。ところが計画性のある監督さんもいるんですけど、結構そうでない人もいたりするじゃないですか、その場のテンションとかの反射神経でものを作っていく。そういう作り方もあると思うし、そういう作り方の方が映画にとっていい場合もあると思うんですけれども、少なくとも、「そういうのがやりたい」という注文があった以上は、ある程度逆算した上での発想が必要なんで要求します。目の前にそういう画が存在しないわけですから、その画を創るためにはどういう材料が必要かというのを構築していかなければならないんですが、そういう概念がわからない人も当然いるんです。それで今までは完結していたんですよ。間違っているのではなくて、作り方が違うわけなんだけれども、こういうところをこうこうこうしてくださいと提案しても、面倒臭いなといわれちゃうと、「じゃあ辞めましょ」ということになるわけです。だから仕掛けがらみの複雑な段取りを理解して演出効果に昇華できる人がいないうちはダメですね。『フォレストガンプ』は判っている演出家が無理を承知で注文出して、デジタルやらせているフシがあるじゃないですか。

Q・21世紀はどうなるんでしょうか?

 今いった人みたいな人は必要だし、俺もそうなりたいなと思うんですよね。さっきの話と絡めていうと、その辺の発想に技術が追い付くようになっていったわけですよ。
 今までは、例えばフィルムで全部やらなければいけないから、これはフィックスですとか言われて、「手持ちでやりたいのになんでフィックスなんだよ」とか思うんですよ。キャメラワ−クが一切制約されてしまったものが、最近は他に整備しなければいけない環境があるにしても、理論上は可能になってきたわけですしね。『フォレストガンプ』なんか観れば分かるとおり、現場の中のキャメラワ−クの中で、あとはそれを繰り返せばいいというような。あとがめちゃくちゃ大変ですけども、それさえやれば現場の思い付きの絵の中に、違った要素をいれていくのが可能になったということは、日本映画がそうということではなくて、日本のデジタル環境がどうこうというものでもなくて、世界的に見たときに、そういうのがかなりでてきたというのが一つ、昔に比べればいいことじゃないですかね。

Q・樋口さん自身の(21世紀に向けての)映画界での役割ってなんだと思いますか?

 まあ、違う映画の作り方とか、違う映像の作り方というのは一つ提示したいなというのはありますね。今創っているのはそうなんですが、いってみればこの画を創りたいから発想していくというやり方なんです。まあ、当たり前のようですが、それをやるためにはどうしたらできるかなっと問い掛けているんですけど。徐々にやるために、ある人を誘うためにそういう話をして、「それってこうなるんだ!」って、さもこっちは新しいことを言っているつもりが、「それってただの今までの延長線上じゃない?」って言われました。「え〜」って思いましたね。俺の中ではものすごく博打なんだけどって。
 押井守さんっていうアニメの監督がいるんですが、アニメではなく、強いて云えば実写ですね、それを今世紀中かけて作るんです。ただ、分量があるので機動力のあるハード構成にして、ライトウェーブ3Dか、3DスタジオMAXでCGIを作ってアフターエフェクツで合成しようかと。その中でさっきのレンズのディスト−ションというのをやりたいんですけど、実はプラグインではすまないみたいなんですよ。レンダラ−書かなきゃイカンと、大変なことになりそうで。

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