神戸の児童連続殺傷事件 

「親には仮面」少年供述 教師、女児殴打の犯行疑う

97.09.16 大阪読売夕刊

 神戸市須磨区の小学生連続殺傷事件で、殺人などの疑いで神戸家裁に送致された中学三年生の少年 (15)(神戸少年鑑別所で精神鑑定中)の両親が兵庫県警の聴取に対し、「厳しく育てて息子がノ イローゼ気味になったので、しつけを控えるようになった」などと話していたことが十六日、わかっ た。少年は「親とは仮面をつけて接していた」と供述。親子間の対話が少ない中で、少年が動物虐待 などを通じて異常性を強めていった様子が浮き彫りになった。また、二月の女児殴打事件後、少年が 通っていた中学校の教諭が、少年の犯行ではないかと疑っていたこともわかった。(18面に関連記 事)

 県警の聴取に対する母親(47)の話では、少年は神経質で消極的。幼いころは積極性を身につけ させようと甘やかさずに厳しく育てたが、小学三年のころ、しかりつけると異常な泣き方をしたため 医師の診断を受け、「ノイローゼ気味になっているので、しつけを控えるように」と言われ、それに 従ったという。

 中学一年の時には、友だちに対して理由もなく暴力を振るったり、いじめたりするなどの行動が目 立ち始めた。教諭の勧めで受けた専門医の診察では、「物事に集中しにくく、周囲に対する認知能力 がゆがんでいる疑いがある」とされた。

 母親はその後、少年の内面的な部分には立ち入らなくなったといい、事件について「思い当たるこ とがない」と話し、父親(47)は「息子と話す機会が少なく、息子を知らなさ過ぎた」と言ってい るという。

 一方、県警のこれまでの調べでは、少年は九三年の祖母の死をきっかけに「死」に好奇心を持ち、 小学六年ごろから猫を殺し始めた。中学入学後は猫では満足できなくなり、「人を殺さなければなら ない」と思うようになったが、親には「本当の姿を見せず、仮面をつけて接していた」と供述した。

 小学六年の時に、授業で脳の形をした赤い粘土にカッターの刃を差し込んだ作品を作り、「虫を殺 すのが趣味で、虫が人に変わるのが怖い」「このままだと人を殺すかもしれない」と教諭に漏らすな ど異常な行動の兆候を示していた。

 中学二年の時に「火葬場の番人」と題する作文で死体が溶けていく様子を描き、不気味さに教諭が 驚いたという。

 また、二月の女児殴打事件では、容疑者が少年の通っていた市立友が丘中の制服を着ていたことを 聞かされた同中の複数の教諭が、県警の聴取に、「ふだんの行動から、犯人は少年ではないかと思っ た」と話していたことも判明した。


神戸の児童連続殺傷事件で少年らが供述 

「その後の犯行防げた…」と被害者たち

97.09.16 大阪読売夕刊

 ◆殺害女児の母親、中学対応に不信感

 「ノイローゼ気味になったのでしつけを控えた」「理由もなく暴力を振るった」。神戸市須磨区の 小学生連続殺傷事件で、中学三年生の少年(15)(神戸少年鑑別所で精神鑑定中)や父母の事情聴 取の内容が明らかになった十六日、三月の連続通り魔事件で殺害された女児の母親ら被害者たちは「 もっと、きちんと対応していれば……」とやりきれない思いを口にした。市立友が丘中の教諭が少年 の犯行ではと感づいていたことにも「その後の事件を防ぐ道もあったのでは」と残念がった。

 母親は、医者の指導があったため少年に対する厳しいしつけを変えた。その後、いじめもするよう になった少年は、「親の前では仮面をつけていた」という。

 これらが、事件にまでいたる前兆だったのか。市立竜が台小四年だった長女の山下彩花さん(当時 十歳)を通り魔事件で失った京子さん(41)は「両親から直接話を聞いたわけではないので」とし ながら「あの子の周りで何があったのか」と疑問を投げかけた。

 だが父親は「話す機会が少なかった」、母親もその後、「息子の内面に立ち入らなくなった」とい う。

 また二月の女児殴打事件で、少年の犯行と教諭が疑っていたことが分かったことについて、日野弘 ・神戸市教委指導部主幹は「中学校から連絡は受けていなかった。ただ、当時は中学生の犯行とは考 えられなかったし、何でもすべて報告を義務づけているわけではなく、問題ない」とする。

 事件では、「犯人は中学の制服姿」との目撃者の証言から、被害者の父親が同中に生徒のアルバム を見せてほしいと電話で依頼したが、学校側は拒否した。

 事件でけがを負った中学一年の女子生徒(13)=当時小学六年=は「学校や警察がもっと真剣に 話を聞いてくれていたら犠牲者は私たちだけで済んだのに」。京子さんも「人権問題もあり、学校が 簡単に写真を見せられないのは理解できますが、複数の先生が気付いていたなら、その後の事件を防 げたかもしれない。割り切れません」と訴える。

 先日、謝罪に来た岩田信義校長に、京子さんは「学校には不信感を感じてしまいます」と答えたと いう。

 これについて冨士越登教頭は、「アルバムを見せてほしいと電話があったが、生徒の人権の問題が あり、警察から依頼があれば応じると伝えた」と説明。日野主幹は「学校の対応は無理もなかった。 犯人捜しは市教委や学校ではできない。だが結果から言えば、同じ被疑者の事件が続いたのは残念だ 」と話している。

 ◆少年のサイン見逃した

 福島章・上智大教授(犯罪心理学)の話「母親の厳しさばかりに目が行きがちだが、しつけは子供 の素質や個性と、環境との適合性の問題だ。異常な言動を通して、少年が節目ごとに出しているサイ ンを周囲が適切に処置してやれなかった。小学三年生で情緒障害が認められた段階での医師、唯一の 甘えられる存在だった祖母の代わりになってやれる家族、二月の少女殴打事件後に少年から直接、事 情を聞けたはずの教師など、その場その場で専門の立場にある大人が、もっと力になってやることで 、“症状”の進行は抑えられた」

 ◆親子関係が喪失

 井上敏明・神戸海星女子学院大教授(青年心理学)の話「子供は家庭内で親の基準に合わせなけれ ば生きられず、親の前では『仮面』をかぶり、その下に隠された部分が肥大化していったと思われる 。親子関係も『息子の内面にまで立ち入らなかった』ことで喪失し、単に同居人のようになっていた のではないか」

 社会評論家、赤塚行雄さんの話「母親の厳しさに対し父親が知らん顔では子供に対するしつけの遠 近感がなくなる。父親のフォローがもっと必要だったのではないか。カウンセリングや精神科の診断 は、それがすべてではない。唯一の方法だと思い込んで、子供も追い詰められるような気になるので は」


須磨の小6殺害事件

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