テキストの部
番外編



こちらは前回の掲載に間に合わなかった、しゃべるくん改め響さんの小説です。
X'masネタで、内容は思わず赤面、のラブラブストーリーとなっております(笑)。
ぜひ最後までお読みください。


悪い夢でも見たらしい。全身をべっとりと汗が濡らしていた。くらくらする頭を振りながら、ベットから床に降りる。
ため息をつき、朝食を食べる。パンと、昨日の残りを暖めたシチュー。話し相手もいないため、いつもどこか味気ない。
ふとカレンダーを見る。
「あ、そうか。今日って……」
コーヒーを飲もうとしたが、豆を切らしていた。舌打ちして、インスタントで我慢する。
ブラックを喉に流し込む。熱がじわりと体に染みわたっていく。意識が澄み渡っていく感触。やっと、目覚めることが出来たような。
食器を手早く洗い、水気を切ってから布巾で水滴を拭う。そろそろ、お湯を使うべきかもしれない。窓から外を見ると、霜が降っていた。
「寒いな……」
今更寒気を感じて、左腕を擦る。そう言えば、まだシャワーを浴びていなかった。汗が冷えて、鳥肌をたたせている。こんなくだらない理由で風邪をひく必要はないだろう。着替えを持ってさっさと脱衣所に向かう。
五分ほど熱いシャワーを浴び、服を着替える。湿った髪がうなじに水滴を流した。ドライヤーで髪を乾かし、額にバンダナを巻く。
いつもの朝。いつもの日常。
しかし、シェゾ・ウィグィィは外出した。いつもなら持っていく、闇の剣を置いたまま。

朝から、ウィッチは不機嫌だった。
もともと低血圧気味ではあるが、ここ最近はまともに目覚めたためしがない。
時計を見ると、もう九時だった。
とにかく何かに八つ当たりしたい気分だったために、手近なそれに向かって毒づく。
「全く、どーして時刻通りに起こしてくれませんの?」
こつ、と軽く叩く。……自分の手の方が痛かったために意味がなかったが。
ああ、苛立たしい。自分自身に腹が立つ。
昔は……四、五年前はそうでもなかった気がするが。
成長するというのがこういうことなら……冗談でもなく、子供のままでいたかった。しかし、彼女を迎えに来てくれるピーターパンはいない。実在しない。あれはお伽話だ……。
やはり、大人になるというのは夢や希望と引き替えなのだろう。
現実を思い知るということかもしれない。
……まだ十五歳の少女が、朝からわざわざ暗い考えをしなくてもいいだろうに、ウィッチはそんなことを考えていた。
「ああ、腹立ってきましたわ」
こんどは口に出して呟き、のろのろとベットから降りる。石造りの床は分厚い絨毯を敷いていても、足に冷たさを押しつけてくる。
上着を肩にかけて、ウィッチは顔を洗いに洗面所に向かった。
廊下に、スリッパを履いたぺたぺたという、力のない足音が響く。ウィッチ一人が住むには、この家――と言うより屋敷――は、広すぎるだろう。
ばしゃばしゃと、冷たい水で顔を洗う。すっと、現実化する意識。全ての感覚が、霞のかかったような状態から冴え渡っていく。
最後に鏡を覗き込み、眉をひそめる。
「……変な顔」
二、三日の徹夜のせいで目の下にくまがあった。疲労ははっきりと表情に刻み込まれていて、笑おうとしても唇の端がひくつくだけだ。
ため息をつき、ついでに首も振る。
体が冷えている。暖かいスープでも飲めば、多少は疲れもとれるだろう。そうすれば、ちゃんと笑えるはずだ。

「さて、どーしたもんかな」
珍しく私服のままで街に出たシェゾは特に何をやるでもなく困っていた。とりあえず、公園のベンチに座ってぼーっとしている。
顔見知りの連中は、いつものマント姿でない彼を見て首を傾げていたが……まあ、そういうこともあるのだろうと納得しているようだった。
そして全く関係のない普通の人々――特に女性――からは、何か特別な感情を持った視線で見られている。ような気がする。首筋が、妙にちくちくするのはそのせいだろう。
ふと、空を見上げる。
澄み渡る、青い空。冬特有の、濁りのない空気を通してより青く見える空。
雲すらない、いい天気だった。
「……んー……」
心ここにあらず、といった感じでただただ見つめている。
放っておけば、そのまま日が暮れてもそこにいそうではあった。
「そだな。そーしよう」
……とりあえず、何か自分で結論を出して納得したらしい。
闇の魔導師……ではなく、ただの青年(にしか見えない)シェゾ・ウィグィィは、立ち上がるとぶらりとどこかに行ってしまった。

憂鬱。そんな単語を意識したことはあまりなかった。
それがあまりにも身近にあったからかもしれないし、そもそも憂鬱とは意識しなければ実在しないからかもしれない。
「どちらでもかまわないんですけどね……」
ため息をつく。どちらにしろ今自分は憂鬱だ。
体を温めようと熱いスープを飲んだ。……舌を火傷した。
全く、今日は朝からついていない。
ひりひりとする舌を持て余しながら、ウィッチは一応鏡を覗き込んだ。
……やはり、笑ってはいなかった。

……夜。
澄み渡る夜空の下にシェゾはいた。
軽い微笑みを浮かべ、月の光を浴びて歩いていく。
その先には、魔女の家がある。

ああ。今日は結局ずっと運が悪い。
ため息の分だけ歳を取ると何かの本に書いてあったが、もしそうなら今日だけで一体いくつ歳を取っただろう。もしかしたら、祖母と並ぶくらいはいったかもしれない。
もう一度、ため息をつく。
と。
こん、と言う音。
カーテンを開けて外を見ると。
「……シェゾ!?」
知り合いが、そこにいた。ここは二階のはずだが、とにかく目の前にいた。
彼には珍しくにっこりとした柔らかい笑みを浮かべ、手招きをしている。
「……何ですの?」
窓を開ける。
すぐ近くにある木の上に彼は座っていた。これも珍しいことだが、いつもの黒づくめのマント姿ではない。
「いいから。こっちこいよ」
「……どーやって?」
彼には悪いが、木登りの経験はない。
シェゾは少し考えていたようだったが……
「ちょっと、そこどけ」
と指示してから、そのままふわりと窓に飛び移る。羽根でも生えているような、軽い身のこなし。そして、つかまれとでも言うように、左手を差し出してくる。
「えーと。あの……」
「あー、うっとーしいなっ !  さっさとしろって ! 」
ぐいっと強引にウィッチの腕をつかむと、抱き上げて、そのままもう一度跳ぶ。
一瞬の浮遊感。次の瞬間には木の枝に着地している。
そこでやっとウィッチは抱きしめられているのを意識して、顔を真っ赤にする。
「ちょっ……シェゾ……」
あわてて何かを言おうとしたはずだが、完全に忘れてしまった。
シェゾのほうは、それを全く気にせずに空を指さす。
「みてろよ」
「え……?」
たんなる空だ。雲一つ無い、澄み切った夜空。
……しかし。
ふわりと、ウィッチの視界に白いもの舞いはじめた。
手のひらに落ちたそれは、冷たい温度を与えながら、すぐに消えてしまう。
「雪……!?」
晴れていたのに。
雲一つ無かったのに。
なのに……雪?
「まさか……」
彼の膝の上に座るような格好なので、独り言のつもりが聞こえてしまったらしい。くすりと笑う吐息が、耳にかかる。
まさか……天候を、操作したのか?
「Merry Xmas」
その言葉を言う……それだけのために?
私だけの、ために?
「ねえ、シェゾ……?」
「いや。偶然だよ……」
彼はそうささやくと、かすめるように彼女の頬に口づけをした。

…………よくあるかもしれない、クリスマスイヴの光景……

Fin.


あとがき

………うひゃあ。
読み直すと、何かむちゃくちゃ恥ずかしいですな。
最近、ちょいとウィッチよりになってるかもですね。だってアルルは魔力を奪う対象じゃないか。好きになってどーする闇の魔導師 !
……すまん。ちょいと熱くなってしまった。冬なのに。
恥ずかしいので友人達(特にアルル派のN氏とルルー派のA氏)には見せずに送ることにしましょう。 問題は、間に合うかどうかですけどね……(書いているのが十二月の十二日)。
ところで、「大満腹王は犬満腹王にして遊ぶべきだ友の会」の会長は、夜逃げしました。仕方ないので今日をもって解散です……っていい加減にしろよ自分。
あーでも、ウィッチFCの脱線魔王を目指すのも吉かも。うん、そーしよう。

最後まで脱線してるじゃん的「眼鏡ぼーい」響でした。

< 香川県大川郡 P.N. 響 さん >


 よんでるこっちが恥ずかしくなってきますね。クーーーッ !! みたいな(笑)。 いーよねー、恋人のいる人たちは…。ケッ、ひとり身はつれーぜ(笑)。

 お友達には見せずに送ったとのことですが、お友達はWFCを見ることはできないのでしょうか? もし見られるのなら、このページを見たあとが楽しみですね、フフフ(悪)。

 ところで「大満腹王は犬満腹王にして遊ぶべきだ友の会」ってのは実在していたのですね(笑)。 ぜひ活動内容が知りたいものです。え? もう解散するの? あらま(笑)。




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