「傍観者」 作・にょ〜にょ


−数えきれないくらいの出会い−

−数えきれないくらいに悪さをはたらいた−

−いたずらもした、正しいようなこともした−

−草木も、動物たちも、当然...人も、−

−数えきれないくらいの命を絶った−

−私一人で−

−そして何千年も生きた−

−私は一人−






−初めて添い遂げられると感じた−

−初めて生きろと言われた−

−もう私ひとりの生ではなくなってしまった−

−ふとそう感じた−

−今は生きたいと思える...だから辛くない−

−ただあなたがいない、あなたの側にいてあげられなかった−

−それがずっと、何より辛く、重い−






−あのひとの信じた人々が−

−あのひとの愛した村が−

−繁栄し、発展していく−

−あのひとの守った動物達が−

−あのひとの育てた木々が−

−狩られていく、刈られていく、カラレテユク−

−私の力は強すぎる−

−私は無力だ−






−小さな庵−

−鬼退治の為の社−

−私とあのひとの場所......だった−

「あなた」

−一度だけそう呼んだことがある−

−なにも答えず、ただはにかむような笑み−

−幸せという言葉がどんな意味かを知った−

−そう感じた−

−あなたは一万回も朝をむかえていなかった−

−でも、私よりはるかに多くの答えを知っていた−

−ただ側に居て観ている−

−それでよかった−

−十分だった−

−鬼は出なくなり−

−庵共々森は切り開かれた−








−村はもうない−

−消えた木々と動物達の分だけ−

−消した−

−この手で−

−わたしが−

−村はある−

−何も変わらない−

−人は増え−

−自然は減る−

−もう800年も経つらしい−

−前世を診るという人間が「800年前の記憶だ」と言っていた−

−たしかにそれくらい経ったかもしれない−

−人の暮らしは便利になった−

−私には不便なことが多い−

−人は疎遠になった−

−私は暮らし易い−

−人は愚かしい−

−一生懸命だ−

−私は観ている−

−私は無力だ−

−それらは何ら変わらない−







−時は過ぎて行く−

−触れることも止めることもかなわない−

−観ることはできる−

−結果が残る−

−変化とは思えない−

−繰り返しのようにしか見えない−

「ふっ。」

−あなたは、この街をみてなんて言うのかしら−

−誉める?−

−称える?−

−怒る?−

−貶す?−

「ふふっ。」

−ただ、ため息をついて見ているのでしょうね−

−あなたも人とは外れた力があった−

−そして人里を離れた−

−無力だった−


−優しいひと−


−だれも傷つけたくないと言った−

−この私さえも−


−傷つけることができなかった−

−あなただけは−


−側に居たいと感じた−

−ずっと−






−あなたは鬼退治を名目に庵を建てた−

−そして出会った−

−年端も行かぬ女童に見えたでしょう−

−もう老いることもないと思っていたのに−

−あの庵では老いることができた−

−髪も伸びた−

−何年かではあったけど−

−時間を感じることができた−

−あなたが病に倒れても−

−庵に暮らすだけで−

−思い出だけでも−

−老いていけた−

−そのまま朽ちて逝けると信じていた−

−そう長くは続かなかった−






−もう老いることはないのかもしれない−

−髪も膝より先に伸びる気配はない−

−影のようについてまわる−

−いっそ切ってしまおうと思った−

−できなかった−

−私の老いた証−

−庵での十数年の記憶−

−あなたの思い出−

−ほんの一瞬のような時間だった−

−そのためだけに生きていける−

−だから生きられる−

−これからも−

−ずっと−


−あなたの愛した動物と、木々と、人を−

−見ていたい−

−これからも−

−ずっと−


−あなたを愛して−


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