「勇者の紋章」 作・類が友を呼ぶ


 目を覚ますと、俺は異世界にいた。魔王を倒す勇者として召喚されたの
だ。「その額の紋章こそ勇者の証です」と言われ、差し出された鏡をのぞ
くと、確かに妙な模様がついていた。
 この世界では、勇者の召喚は珍しくなく、俺は八人目だそうだ。なんか、
勇者のありがたみというか、そういう物があまり無いけど、昔の勇者が使っ
たという強い装備品がすぐに手に入ったから、まあよしとしよう。

 …そして、俺は今、魔王城の前にいる。
 ここまで、決して楽ではなかった。何度も危ない目にあった。だが、ど
んな時も俺は切り抜けてきた。絶対に助からないという、死蝶花の毒をく
らった時でも、奇跡的に生き延びたのだ。俺は負けない。絶対に負けない!
 俺は、正面から殴り込みをかけた。一撃で魔王は倒れた。弱い。もしか
して、偽者だろうか。そう思って、俺は魔王がかぶっていたフードをはぎ
取った。そして、その場で凍りついた。
 魔王は、しわくちゃのじいさんだった。だが、そんなことはどうでもい
い。俺の目は、魔王の額にくぎづけになっていた。しわのせいで見にくい
が、そこにあったのはまぎれもない、『勇者の紋章』…。
 さらに魔王は、とんでもないことを言った。
「ああ、これでやっと死ねる…」
「なんだと、そりゃ一体どういうことだ」
 俺は魔王を問いただした。

「教えておいた方がいいな。これは先代の魔王から聞いたんだが、実は、
『勇者の紋章』を持つ者は、異常に老化が早い。そして、同じ紋章を持つ
別の人間に殺されないかぎり、絶対に死なないんだ。最初の数年はいいが、
体が弱り出したら悲劇だぞ。関節は痛むしすぐ病気になる。老化は止まら
ないまま何百年も生き続ける。まさに生き地獄だ。だが、お前が来て、やっ
と死ぬことができる。助かった、ありがとう」
 魔王はかすれた声で、そんな意味のことを言った。そしてほっとしたよ
うに目を閉じた。俺は自分の耳を疑い、もっと細かい説明を求めて魔王の
体を揺さぶった。
「ちょい待て、勝手に死ぬんじゃない、おい…」

 こうして勇者は、第九代目魔王を襲名した。


「傍観者」