全世界の陸地面積の半分以上を占める最大の大陸アクロディア。フォーリスはこの大陸の西方に位 置する亜大陸を中心とする一大文明圏の総称である。 南北にかなり気候の差があるものの、基本的に温帯に位置するため人間の居住には適している。こ のためこの地域はその広さの割に人口が多く、それがこの地域に大文明圏を成立させた大きな要因で あると言えるだろう。さらに解説すれば、フォーリスの気候は大きく四つに分かれる。まずフォーリ スの中心部に広がる中洋海(レヴィアス内海)周辺部の雨量の少ない亜熱帯気候、南フォーリスを貫 くウージェス山脈以南の高温多雨な気候、フォーリス亜大陸の背骨と呼ばれるカウルス山脈以北の温 帯、さらに北フォーリスと呼ばれる地域の寒冷部、というように大きく四つに気候区分がされている。 大陸の中でも氷河期の影響を大きく受けたためと思われる複雑な地形を持ったこの地域には、四つ の気候とあいまってかなりの多様性を持った文化圏を各地に発生させる事になった。 面積の割には多い人口と多様性を持った文化の数々。人間の歴史が必要以上のダイナミズムを生み 出すのに、これ以上の好条件はなかったと言えるだろう。
前述したように、この地域の歴史は、よく言えば非常にダイナミズムに富んでおり、悪く解釈すれ ば平穏などというものにはほど遠い事象を刻んできたことを特徴としている。 以下よりこの地域の歴史を解説するが、この地域では時代や地方、王朝などによって様々な暦法が 使用されてきた。そのためフォーリス全体の歴史を解説するには煩瑣に過ぎて適さないと考える。こ こでは、大陸東方ジャクリアの暦法で、大陸の各所で長く使用された暦法である“帝暦”を使用させ ていただく。
この地域の文明の発祥は帝暦1000年ごろと考えられている。この頃フォーリス東部のケレス都市国 家群、ラッツェル文明、フォーリス西部のクシア文明、北フォーリスのズィス民族など多数の文明が 前後三百年ほどの誤差でフォーリス各地で成立していた事が確認されている。 これらの文明のうち次第に勢力を拡大し、他の文明を侵略、吸収していったのは、フォーリス西部 の中洋海沿岸部に発祥しフォーリス西部のほぼ全域を制したラウム。南フォーリスに成立した海洋文 明マドゥック。大陸中央部よりフォーリス東部に侵入し一大帝国を築いたコーネル、の三大文明であ る。
ラウム帝国の母体となったのは帝暦1000年ごろ中洋海沿岸部に発祥し、豊かな農業生産力を背景に して繁栄していたラウム文明である。 素朴な原始共産制を敷いていたラウムは、東に勢力を広げケレス都市国家群を支配下に収めた事に よって、都市国家群の洗練された共和制度をも吸収する事になる。彼らはラウム文明人を市民とし、 他民族を奴隷とするラウムは評議会と元老院による共和政治を行い、長い安定期を迎える。この共和 政治は200年ほど続くが、北フォーリスの蛮族鎮圧に功あった軍人エクンドラが謀略や政治工作など で政治権力を握り、独裁制に移行する。この後、エクンドラも暗殺され、長い権力抗争の末、ネユー フ・アダマンドという軍人がラウル帝国の初代皇帝として君臨し、西フォーリス全土を制するラウム 帝国が成立する。 ちなみにフォーリスというのこの地域の名称はラウム神話における大地母神よりきているという説 が有力である。レヴィアス内海の名は荒ぶる海神の名からきている。 東方より移住してきた民族が成立させた帝国コーネルは、この地方に大きな二つの文化をも移入さ せた。それは鉄器と騎馬である。当初、この特に軍事において破壊的効力を持つ文明を備えた東方民 族は、フォーリスの諸文明にとってよほど驚異であったようだ。どの文明の記録や記憶にも東方の騎 馬民族の侵略や掠奪と思われる形跡が数多く残されている。その東方民族の主立った民族を糾合し、 フォーリス東部に築かれたのがコーネルである。おそらく軍事的にはこの時代最強の国家であろうコ ーネルは、東部フォーリス一帯を支配することになったのである。 中洋海とウージェス山脈によって懸絶されてきた南フォーリスの民たちは、ウージェス山脈を渡る 路を発見し中洋海を見出し自分たちの行動範囲が広がったことに対して熱狂的に感激した。とはこの 地の歴史家の言葉である。事実、中洋海を発見した後、南フォーリスの民たちは海を介してフォーリ ス各地に進出していった。合わせて南フォーリスの海洋民族と呼ばれる彼らの一部は、帰巣本能に駆 られたか南フォーリスにさまざまな産物を持ち帰った。中洋海一帯に広がった彼らはやがて相互に連 絡し合うようになり、一大海運国家を築く事になった。これが南にあって、しばしばラウムを脅かし たと言われる、南部フォーリスの大海運国家マドゥックの成立である。
ニ百年にも及ぶ三国時代に終止符を打つのは、西のラウムであった。ダンジゲル帝、女帝ファシス、 女帝デュエズ、ビュィズ帝、ヨウスと傑出した5人の皇帝を続けて輩出したラウムは、長き渡る宿敵 であったコーネルとマドゥックを圧倒し、ついにこれらの大国とその植民地を支配下に収めるこに成 功する。 こうしてフォーリスは一度統一され、最初の文明、文化の爛熟期を謳歌する。この時代、魔導が一 気に発達し、人々の生活(といってもラウムの市民だけだが)に供される。ラウムが別名、古代魔導 文明と呼ばれるのはこれによる。宗教についても、ラウムの国教とした一神教がフォーリス全土に広 がり、後世にまで多大な影響力を持つようになるのであった。
帝暦2499年、西フォーリスに広がる黒き樹海の彼方より、金髪碧眼の蛮人たちが襲来する。始めは 植民地単位で彼らの襲来を抑えていたが、そのうちラウムに搾取され続けていた植民地や奴隷たちの 中も彼らに同調しはじめ、ラウムの本体を揺るがし始める。これに対し、ようやくラウム本国の政府 と軍が動き出すが、もはや長い爛熟期を経ていたラウムは腐敗の極に達しており、政府は対応能力を 持たず、出征した軍隊は敵と戦うより植民地を収奪する事に熱中するありさまであった。
蛮人の襲来に苦戦するラウムは、ついに暗黙の禁忌であった魔導を軍事的に用いる事を決意する。 ラウムでは12人の若く有望な魔導師たちが選抜され、蛮人(北方騎馬民族)たちの鎮圧にあたらせた。 しかし、彼らは出征先で彼らは自国の植民地収奪や軍の掠奪の実態を知り、ラウムに正義無しと判断 する。そして彼らは母国を裏切って植民地解放の戦線を築くのであった。 この魔導師たちの反逆に対して、ラウムもまた自国の魔導師たちを総動員して対応する。ここに先 史人類たちの最大の悲劇と言われる魔導大戦が勃発する。戦術核兵器並みの威力を持つ上級魔導師た ちの戦いは、フォーリス全土を巻き込み百年近くも続いた。この間に先史人類たちが築いた文明も文 化も徹底的に破壊され、フォーリスの人口も一説には十分の一にまで減ってしまった。
地獄という以外、あまり語るべき言葉を持たない時代。国家を築くどころか人間はひたすら生きて 子を産み育てることが精いっぱいであった時代である。
そして、ようやく復興の兆しを見せた人々は、再び各地に国家を築き始める。しかし、あまりにも 愚かしい事に、乱立していった国家群が選んだ道は共存ではなく、互いを食い合う事であった。
未だに残る魔導大戦の傷痕、戦乱に苦しむ人々は宗教に救いを求めた。西フォーリスの黒の樹海に 興った魔導を否定し自然と神を崇めるというドルード教(森帰教)は、急速に信者を集めて勢力を拡 大していった。そしていつしか肥大化していったドルード教は、西フォーリスを支配する巨大教団と して、国家を超えた力を持ちはじめるのである。そしてその過程において、教団は変質し強大な力を 持つ魔導をもって世界を支配し、すべての文明を破壊し森へと返すという当初の教義とはまった違っ た教えに、教義が歪められていくのであった。その歪んだ教義を指導していたのが、教団の教皇ドル メーガである。彼は支配下のリンギット帝国の皇帝ラーズルをそそのかし、東方征服の“聖戦“を起 こす。これに対抗して、東方諸国は団結するが苦戦はいなめなかった。ここに邪教戦争と呼ばれる、 凄惨な宗教戦争が興る。 この戦いは後に聖王女と呼ばれたエルフリーダが率いるザクレブ王国軍とルードヴィクス傭兵団の 活躍、リンギットの皇帝ラーズルの反逆などによってドルメーガは倒され終結する。 ちなみにドルメーガ亡き後、本来の教義に戻ったドルード教は、再三の弾圧にも屈せず、再び森を 崇める穏やかな教団として後世まで残る。森のごとく静かに、強く教えを受け継いでいく教団らしい エピソードである。
ドルード教の勢力が滅びると、フォーリスも元の状態に戻り、各地で国家が乱立し治乱興亡を繰り 返す時代が訪れる。
第二次戦乱期が、それぞれの国家が互いの独立を認め始め、国家が収まるべきところへ収まるとい う形で比較的穏便に戦乱の時代を終えようとしている時代の出来事であった。フォーリスにとつては 魔導大戦以来の全土を揺るがす出来事が訪れる。 大陸の東方ジャクリアにひとつの大帝国が出現する。大陸においてもっとも肥沃なな大地と大人口 を抱えるこの地に成立した大アクロディア帝国は、その初代皇帝アーキクロイド・エレ・ノヴァの征 服欲の赴くままに、大陸を飲み込もうとする。優れた兵器と強大な兵力、掣肘なき大魔導、悪魔のご とき有能な将軍たちの力により、かつて大陸に存在しなかつた強大な軍事力は大陸の全国家を圧倒し 飲み込んでいった。そしてそれは大陸の西端であるフォーリスも例外ではなかった。陸海共同でフォ ーリスになだれ込んできたアクロディア軍は、またたくまにフォーリス全土を席捲していった。こう して、フォーリスは同地域の出身者によらぬ手で再度の統一を強いられたのである。この出来事も十 分に衝撃的であったがフォーリスの人々にとつてもっと衝撃的だったのが、自分たち以上に発達した 文明を持つ者たちに完膚なきまで叩きのめされたことであった。
あいつぐ各地の反乱を武力で叩き潰しながら続いた、アクロディアによる統一はわずか5年で潰え 去る。初代皇帝の死により、急激すぎた大陸支配が崩れ、大陸全土で反乱が相次いだためアクロディ アは帝国そのものが危うくなったのである。この好機に各地のアクロディアに反発を持つものたちは 一挙に蜂起したのであった。 この独立勢力は植民地支配軍と大国アクロディアに従い続ける勢力に対抗し、20年にもわたる独立 戦争を戦い抜かねばならなくなるのであった。
東方の支配のくびきより脱したフォーリスは、独立戦争において特に活躍した七大国が大きな発言 権を持つようによる。これらの国家は、互いにいくつかの条約を結び、再びフォーリスが侵略を受け ぬようにする連合軍構想や貿易や外交の協定など、後にこれがフォーリス全土を支える国際法や倫理 の雛形となるのである。ちなみにゲームや原作中に登場する“月命暦”はこの時代に作られている。 後にもっとも平和に近づいた時代と呼ばれる時代ではある。
しかし、七大国の支配はあまりにフォーリスの諸民族や各文化圏の事情を無視した構想であった。 この後、七大国の支配は崩れ、フォーリスは各地の地方の事情に合わせた諸国家に分裂する。とはい え、それまでの戦乱期のような国家と国家が血と血で応酬しあうような時代ではもはやなく、分裂し て互いに牽制しあいつつ、微妙なバランスをもって安定する時代が到来したのであった。
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