『作品目録』
1.曲名・2.編成・3.演奏時間・4.委属者・5.初演年月日・6.初演場所
7.初演者
8.詳しい編成・9.プログラムノート・・・の順に示しています。
<1995年作品>
- 西行ー光の道
- 雅楽、聲明、伶楽
- 3.58分
- 国立劇場委嘱作品
- 1995年9月29日
- 国立大劇場
- 芝 祐靖、宮田まゆみ、東儀兼彦、孤嶋由昌、新井弘順、海老原広伸 他
- 龍笛7、篳篥7、笙10、箜篌2、四絃琵琶、五絃琵琶、十三絃箏、十七絃箏、二十絃箏、
瑟、打楽器4、聲明35名
- 吉野から熊野にかけての、大峰山系、古来この深閑とした峰々を曼荼羅に見立て、修行の場としてきた修験道者たち。平安の頃、西行もこの峰に立ったいう。修行、荒行、霊地といった言葉が、変な意味を持ってしまった今も、西行が見たと同じ「月」が佇む。
雅楽が醸し出す透明な音色は、悠久の彼方から、現代の奇妙な不安を忘れさせてく
れる響きを持っている。思えば平安以来、雅楽は様々な時代を生きてきた。あんな響
きが生き残っているのが不思議なくらい、様々な事象を通り抜けたことになる。平安
時代そのままの? いや、全く違う現代の息吹を生きている。我々がそこに平安時代
の安らぎのようなものを感じ取るのは響きの普遍性故だろうが、実際には「今」を生
きている。
聲明はその神秘性故にやはり時代を超える。僧侶の読経という純粋な宗教行事が、
宗教を越える表現を持つに至ったのも、声の持つ人間の根元への語りかけが、我々の
心を直接揺さぶる、まさに振動が響きとなる瞬間を体現させてくれるからに違いない
。深い伝統に根ざしているとは言うものの、唱うのは「今の人」たちだ。
戦後50年の節目、いやな出来事の渦巻く「何とは無しの不安」を持つ今の我々の、
共通の思いが響きの中に溶け出して行く。曼荼羅の宇宙観、大峰の山々に託した祈り
、そこに込められる思いは人それぞれだが、皆、今を生きている。自分の中にある過
去、現在、未来、時代は違ってもいつも人の頭の中を去来する。それは太古の昔の人
類も、平安の頃も現在も変わらないと思う。そして人々は何かにそれを託してきた。
西行の大峰修行、多くの修験者たちが祈りを捧げ、行を極める大曼荼羅「大峰山」、
聲明の僧侶たちが祈りを捧げる両界曼荼羅図、それぞれ方法は違っても、純粋な心の
拠り所であることは間違いない。
国立劇場の田村さんから今回の公演の作品を依頼さた時、私は漠然とだが「祈り」
を込めた作品を書きたいと思っていた。戦後50年、平和を願う心は持っているつもり
だが、戦後生まれの私には語るべき体験はない、おまけに音楽という抽象的な媒体に
よって仕事をしている身では、はっきり主張できる言葉も持たない。出来るとすれば
「祈り」の表現くらいだと---。曼荼羅の持つ世界観には元々心惹かれるものがあり
、雅楽、聲明、それに復元された古代楽器である伶楽によって、一種の音曼荼羅を作
り「祈り」を表現する、そんな発想を持っていた。そこに田村さんから提示されたの
が、吉野、熊野にまたがる大峰山系の、曼荼羅思想である。西行の大峰修行、修験道
の修行の場、谷行の思想、といった断片的知識と、憧れは持っていたものの、ここま
ではっきり自然を思想の中に取り込んでいるとは、不明にして知らなかった。「笙の
窟」「蘇莫者嶽」といった音楽にまつわる伝説もあり、私の発想を託すに相応しい拠
り所を得た。
曲は、大劇場空間を吉野と熊野の大峰山曼荼羅空間に見立て、「祈りつつ空間を旅
する」構成になっている。三人の僧侶と、龍笛、篳篥の奏者は、劇場内を移動しなが
ら演奏し、空間の位置を変える。また後方に位置する「笙の窟」になぞらえた笙奏者
の響きも、空間を立体的にする。あなたの「前」だけが常に正面ではない。時に後ろ
に注意を集中してみると、そこに思わぬ「正面」が位置している。本当なら森閑とし
た山の中に点在する演奏者の間を歩きながら、その響きに包まれていただきたいのだ
が---。
それぞれの「今」が集まる劇場という空間に、ほんの一時でも解け合う時間が持て
れば、と思いつつ作曲の筆を進めた。劇場の中に大峰山を呼び込む、そんなことが出
来るはずもないのだが、少なくとも同じ響きの中に浸り、同じ時間を共有する中で、
山々に思いを馳せて頂ければ幸いである。そしてそこに「祈り」の意味を見いだして
頂ければと、心から思う。「深き山に 澄みける月を見ざりせば 思ひ出もなき我身
ならまし」西行の祈りの地、深仙に立つことなくこの作品を書いていることを深く恥
じつつ、思いを馳せている。都会の月もまた、私の今を映し出す。現実、それは空気
だ。それが汚染されていようとも、否応なくいっぱいに吸い込まなければ生きて行け
ない。「身につもる言葉の罪も洗はれて 心澄みぬるみかさねのたき」、今宵一夜の
響きの中で、我が身につもった言葉の罪も洗い流されん事を願うばかりである。
- 崩壊の神話ーオーケストラのための(1995)
A Mythical Implosion for orchestra(1995)
- 3管編成オーケストラ
- 28分
- NHK交響楽団委嘱作品
- 1995年5月7日
- サントリー・ホール
- 尾高忠明指揮、NHK交響楽団
- INSTRUMENTATION
3 Flutes (。 doubling Piccolo )
3 Oboes (。 doubling English-horn)
3 Clarinets (。 doubling Bass-clarinet)
3 Bassoons (。 doubling Double-bassoon)
4 Horns
3 Trumpets
2 Trombones
1 Bass-trombones
1 Tuba
5 Percussion ---------.Glockenspiel,Marimba
.Vibraphone,2Suspended-cymbal
。.Tubular-bells,Tam-tam, Antique-cymba
ls(2oct)
「.Anvil,Tam-tam,Bass-drum,Suspended-cymbal
」.Timpani
1 piano (doubling Celesta)
1 Harp
欸iolins
Violins
Violas
Violoncellos
Double basses
- .フラクタル・ゾーン=蓄積されたエネルギー
.ナガサキ=破壊
。.メタリック・キューブ=再生への始まり
The Fractal Zone
NAGASAKI
。 A Metallic Cube
崩壊のエネルギー、蓄積に次ぐ蓄積は、やがて崩壊に向かわなくてはならないのだ
ろうか? 天変地異にせよ人為的破壊にせよ、崩壊に至るには莫大なエネルギーを必
要とする。それこそすさまじい力だ。50年前の戦争が既に遠い過去のものになりつつ
ある現在も、世界各地に戦いの絶えた試しがない。阪神大震災のような天変地異は、
今の人間の力では防ぐことも、避けることも、逃げることさえもできないとするなら
ば、せめて、人為的崩壊だけでもくい止められないのだろうか。少なくとも加害者に
ならない努力、これは私たちにも出来るような気がするのだが---。
終戦後50年の節目に当たる今年、NHK交響楽団からの委嘱を頂いたのも何かの導
きかと思いつつ作曲の筆を進めた。曲は.フラクタル・ゾーン=蓄積されたエネル
ギー、
.ナガサキ=破壊、。.メタリック・キューブ=再生への始まり、の3楽章からなる。
フラクタルは、自己相似形を持つ複雑な図形を作ったり、複雑な自然現象を分類、
解析する最近の理論で、“自己相似形”の集積がヘテロフォニーを作り出す日本の伝
統音楽のあり方を考える上でも参考になる。夜中にコンピューターが必死でフラクタ
ル図形を演算しつつ描き出していく姿を見ていると、そこに内包される静かなエネル
ギーに圧倒される。
ナガサキは今の所人類最後の原子爆弾の被爆地である。我が息子は、93年8月9
日の未明に生まれた。あの日の長崎だったら数時間で終わりの命だ。1歳9カ月の今
、本当にスクスクと育っている事に感謝し喜べば喜ぶほど、あの日でなくて本当によ
かったと、心から思う。
メタリック・キューブ、金属の立方体は、人為的産物の象徴である。金属は天然に
存在するものだが、それを取り出し、立方体を作るというのは、今の所地球上では人
間にしかできない。そして、再生は混沌より始まる。
- いのちの祝祭ー合唱とオーケストラのための
The Celebration of Life
- 混声四部合唱、2管編成オーケストラ(混声四部合唱、ピアノ)
- 28分
- サザンクス筑後落成記念委嘱作品
- 1995.3.1
- サザンクス筑後大ホール
- 星の林ー復元された新羅琴のために
The Grove of Stars
- 新羅琴、笛、洞簫、打楽器
- 20分
- 国立劇場委嘱作品
- 1994.7.8
- 国立劇場小劇場
- 時の鏡氈[風の地平(改訂版)
Les Temps desMiroirs ーL'Horizontale du Vent
- 龍笛、笙、4chテープ
- 29分
- NHK電子音楽スタジオ委嘱作品
- 1993.10.17
- NHK−FM
- 火の道
Procession of Fire
- 能管2、和打楽器3、打楽器2、コンピューター
- 40分
- ICMC(国際コンピューター・ミュージック会議)委嘱作品
- 1993.9.11
- 早稲田大学井深ホール
- 水の葉
Water Leaf
- 龍笛、篳篥、笙、尺八、二十絃箏
- 15分
- グリーンホール相模大野「音楽の実験室」委嘱作品
- 1993.6.11
- グリーンホール相模大野
- .無意識な立像ーオーケストラのための
Unconscious Statue
- 3管編成オーケストラ
- 15分
- NHK委嘱作品
- 1993.10.17
- NHK−FM
- 霧の間奏曲ーフルート・オーケストラのための
A Misty Interlude
- フルート・オーケストラ
- 20分
- 日本フルート協会委嘱作品
- 1993.1.10
- サントリーホール
- 諷詠の章ー百人一首より
The Chapter of the Wind
- メゾソプラノ、ピアノ
- 13分
- 安積尚子委嘱作品
- 1992年12.20
- バリオ・ホール
- 光の残像 signals to those unknown
The Remains of the Light ー signals to those unknown
- ピアノ
- 9分
- 大竹紀子委嘱作品
- 1992.12.5
- サントリーホール小ホール
- 球形の悔過
Spherical Penitence
- 聲明16名、笙2、打楽器2
- 90分
- 国立劇場委嘱作品
- 1992.11.13
- 国立劇場小劇場
- 濤韻"let the wave---"ー二十絃箏のために
To-in "let the wave---"
- 二十絃箏
- 12分
- 吉村七重委嘱作品
- 1992.10.5
- 東京FMホール
- 風鐸ーヴァイオリンと打楽器のための
Timeless Bells in the Wind
- ヴァイオリン、打楽器
- 8分
- 木村まり委嘱作品
- 1992.2.17
- カザルス・ホール
- 流砂ーギター・デュオのための
Quicksand
- ギター2
- 10分
- 小原安正追悼コンサート委嘱作品
- 1992.2.9
- こまばエミナース
- 砂の都市
City of Sand in a Labyrinth
- ソプラノ、ピアノ、シンセサイザー、打楽器2
- 15分
- インターリンク・フェスティバル委嘱作品
- 991.11.20
- カザルス・ホール
- バレエ「新当麻曼荼羅」組曲ーピアノのための
Mandala Suite for piano
- ピアノ
- 15分
- 蛭多令子委嘱作品
- 1991.9.14
- 京都府立府民ホール・アルティ
- 天問ー屈原詩による
Query to the Cosmos
- 常磐津唄2、長唄2、三味線2、箏2、十七絃2、打楽器2
- 20分
- 国立劇場委嘱作品
- 1991.6.27
- 国立劇場小劇場