『作品目録』

1994年作品
1993年作品
1992年作品
1991年作品

1.曲名・2.編成・3.演奏時間・4.委属者・5.初演年月日・6.初演場所
7.初演者 8.詳しい編成・9.プログラムノート・・・の順に示しています。


<1995年作品>

  1. 西行ー光の道
  2. 雅楽、聲明、伶楽
  3. 3.58分
  4. 国立劇場委嘱作品
  5. 1995年9月29日
  6. 国立大劇場 
  7. 芝 祐靖、宮田まゆみ、東儀兼彦、孤嶋由昌、新井弘順、海老原広伸 他
  8. 龍笛7、篳篥7、笙10、箜篌2、四絃琵琶、五絃琵琶、十三絃箏、十七絃箏、二十絃箏、 瑟、打楽器4、聲明35名
  9. 吉野から熊野にかけての、大峰山系、古来この深閑とした峰々を曼荼羅に見立て、修行の場としてきた修験道者たち。平安の頃、西行もこの峰に立ったいう。修行、荒行、霊地といった言葉が、変な意味を持ってしまった今も、西行が見たと同じ「月」が佇む。

      雅楽が醸し出す透明な音色は、悠久の彼方から、現代の奇妙な不安を忘れさせてく れる響きを持っている。思えば平安以来、雅楽は様々な時代を生きてきた。あんな響 きが生き残っているのが不思議なくらい、様々な事象を通り抜けたことになる。平安 時代そのままの? いや、全く違う現代の息吹を生きている。我々がそこに平安時代 の安らぎのようなものを感じ取るのは響きの普遍性故だろうが、実際には「今」を生 きている。

     聲明はその神秘性故にやはり時代を超える。僧侶の読経という純粋な宗教行事が、 宗教を越える表現を持つに至ったのも、声の持つ人間の根元への語りかけが、我々の 心を直接揺さぶる、まさに振動が響きとなる瞬間を体現させてくれるからに違いない 。深い伝統に根ざしているとは言うものの、唱うのは「今の人」たちだ。

     戦後50年の節目、いやな出来事の渦巻く「何とは無しの不安」を持つ今の我々の、 共通の思いが響きの中に溶け出して行く。曼荼羅の宇宙観、大峰の山々に託した祈り 、そこに込められる思いは人それぞれだが、皆、今を生きている。自分の中にある過 去、現在、未来、時代は違ってもいつも人の頭の中を去来する。それは太古の昔の人 類も、平安の頃も現在も変わらないと思う。そして人々は何かにそれを託してきた。 西行の大峰修行、多くの修験者たちが祈りを捧げ、行を極める大曼荼羅「大峰山」、 聲明の僧侶たちが祈りを捧げる両界曼荼羅図、それぞれ方法は違っても、純粋な心の 拠り所であることは間違いない。

     国立劇場の田村さんから今回の公演の作品を依頼さた時、私は漠然とだが「祈り」 を込めた作品を書きたいと思っていた。戦後50年、平和を願う心は持っているつもり だが、戦後生まれの私には語るべき体験はない、おまけに音楽という抽象的な媒体に よって仕事をしている身では、はっきり主張できる言葉も持たない。出来るとすれば 「祈り」の表現くらいだと---。曼荼羅の持つ世界観には元々心惹かれるものがあり 、雅楽、聲明、それに復元された古代楽器である伶楽によって、一種の音曼荼羅を作 り「祈り」を表現する、そんな発想を持っていた。そこに田村さんから提示されたの が、吉野、熊野にまたがる大峰山系の、曼荼羅思想である。西行の大峰修行、修験道 の修行の場、谷行の思想、といった断片的知識と、憧れは持っていたものの、ここま ではっきり自然を思想の中に取り込んでいるとは、不明にして知らなかった。「笙の 窟」「蘇莫者嶽」といった音楽にまつわる伝説もあり、私の発想を託すに相応しい拠 り所を得た。

     曲は、大劇場空間を吉野と熊野の大峰山曼荼羅空間に見立て、「祈りつつ空間を旅 する」構成になっている。三人の僧侶と、龍笛、篳篥の奏者は、劇場内を移動しなが ら演奏し、空間の位置を変える。また後方に位置する「笙の窟」になぞらえた笙奏者 の響きも、空間を立体的にする。あなたの「前」だけが常に正面ではない。時に後ろ に注意を集中してみると、そこに思わぬ「正面」が位置している。本当なら森閑とし た山の中に点在する演奏者の間を歩きながら、その響きに包まれていただきたいのだ が---。  それぞれの「今」が集まる劇場という空間に、ほんの一時でも解け合う時間が持て れば、と思いつつ作曲の筆を進めた。劇場の中に大峰山を呼び込む、そんなことが出 来るはずもないのだが、少なくとも同じ響きの中に浸り、同じ時間を共有する中で、 山々に思いを馳せて頂ければ幸いである。そしてそこに「祈り」の意味を見いだして 頂ければと、心から思う。「深き山に 澄みける月を見ざりせば 思ひ出もなき我身 ならまし」西行の祈りの地、深仙に立つことなくこの作品を書いていることを深く恥 じつつ、思いを馳せている。都会の月もまた、私の今を映し出す。現実、それは空気 だ。それが汚染されていようとも、否応なくいっぱいに吸い込まなければ生きて行け ない。「身につもる言葉の罪も洗はれて 心澄みぬるみかさねのたき」、今宵一夜の 響きの中で、我が身につもった言葉の罪も洗い流されん事を願うばかりである。


  1. 崩壊の神話ーオーケストラのための(1995)
    A Mythical Implosion for orchestra(1995)
  2. 3管編成オーケストラ
  3. 28分
  4. NHK交響楽団委嘱作品
  5. 1995年5月7日
  6. サントリー・ホール
  7. 尾高忠明指揮、NHK交響楽団
  8. INSTRUMENTATION 3 Flutes (。 doubling Piccolo ) 3 Oboes (。 doubling English-horn) 3 Clarinets (。 doubling Bass-clarinet) 3 Bassoons (。 doubling Double-bassoon) 4 Horns 3 Trumpets 2 Trombones 1 Bass-trombones 1 Tuba 5 Percussion ---------.Glockenspiel,Marimba .Vibraphone,2Suspended-cymbal 。.Tubular-bells,Tam-tam, Antique-cymba ls(2oct)      「.Anvil,Tam-tam,Bass-drum,Suspended-cymbal   」.Timpani 1 piano (doubling Celesta) 1 Harp      欸iolins Violins Violas Violoncellos Double basses
  9. .フラクタル・ゾーン=蓄積されたエネルギー
    .ナガサキ=破壊
    。.メタリック・キューブ=再生への始まり
    The Fractal Zone
    NAGASAKI
    。 A Metallic Cube

崩壊のエネルギー、蓄積に次ぐ蓄積は、やがて崩壊に向かわなくてはならないのだ ろうか? 天変地異にせよ人為的破壊にせよ、崩壊に至るには莫大なエネルギーを必 要とする。それこそすさまじい力だ。50年前の戦争が既に遠い過去のものになりつつ ある現在も、世界各地に戦いの絶えた試しがない。阪神大震災のような天変地異は、 今の人間の力では防ぐことも、避けることも、逃げることさえもできないとするなら ば、せめて、人為的崩壊だけでもくい止められないのだろうか。少なくとも加害者に ならない努力、これは私たちにも出来るような気がするのだが---。
 終戦後50年の節目に当たる今年、NHK交響楽団からの委嘱を頂いたのも何かの導 きかと思いつつ作曲の筆を進めた。曲は.フラクタル・ゾーン=蓄積されたエネル ギー、
.ナガサキ=破壊、。.メタリック・キューブ=再生への始まり、の3楽章からなる。  フラクタルは、自己相似形を持つ複雑な図形を作ったり、複雑な自然現象を分類、 解析する最近の理論で、“自己相似形”の集積がヘテロフォニーを作り出す日本の伝 統音楽のあり方を考える上でも参考になる。夜中にコンピューターが必死でフラクタ ル図形を演算しつつ描き出していく姿を見ていると、そこに内包される静かなエネル ギーに圧倒される。
 ナガサキは今の所人類最後の原子爆弾の被爆地である。我が息子は、93年8月9 日の未明に生まれた。あの日の長崎だったら数時間で終わりの命だ。1歳9カ月の今 、本当にスクスクと育っている事に感謝し喜べば喜ぶほど、あの日でなくて本当によ かったと、心から思う。
 メタリック・キューブ、金属の立方体は、人為的産物の象徴である。金属は天然に 存在するものだが、それを取り出し、立方体を作るというのは、今の所地球上では人 間にしかできない。そして、再生は混沌より始まる。



<1994年作品>

  1. いのちの祝祭ー合唱とオーケストラのための The Celebration of Life
  2. 混声四部合唱、2管編成オーケストラ(混声四部合唱、ピアノ)
  3. 28分 
  4. サザンクス筑後落成記念委嘱作品
  5. 1995.3.1
  6. サザンクス筑後大ホール
  1. 星の林ー復元された新羅琴のために The Grove of Stars
  2. 新羅琴、笛、洞簫、打楽器
  3. 20分
  4. 国立劇場委嘱作品
  5. 1994.7.8
  6. 国立劇場小劇場

<1993年作品>

  1. 時の鏡氈[風の地平(改訂版) Les Temps desMiroirs ーL'Horizontale du Vent
  2. 龍笛、笙、4chテープ
  3. 29分
  4. NHK電子音楽スタジオ委嘱作品
  5. 1993.10.17
  6. NHK−FM
  1. 火の道 Procession of Fire
  2. 能管2、和打楽器3、打楽器2、コンピューター
  3. 40分
  4. ICMC(国際コンピューター・ミュージック会議)委嘱作品
  5. 1993.9.11
  6. 早稲田大学井深ホール
  1. 水の葉 Water Leaf
  2. 龍笛、篳篥、笙、尺八、二十絃箏
  3. 15分
  4. グリーンホール相模大野「音楽の実験室」委嘱作品
  5. 1993.6.11
  6. グリーンホール相模大野
  1. .無意識な立像ーオーケストラのための Unconscious Statue
  2. 3管編成オーケストラ
  3. 15分
  4. NHK委嘱作品
  5. 1993.10.17
  6. NHK−FM
  1. 霧の間奏曲ーフルート・オーケストラのための A Misty Interlude
  2. フルート・オーケストラ
  3. 20分
  4. 日本フルート協会委嘱作品
  5. 1993.1.10
  6. サントリーホール



<1992年作品>

  1. 諷詠の章ー百人一首より The Chapter of the Wind
  2. メゾソプラノ、ピアノ
  3. 13分
  4. 安積尚子委嘱作品
  5. 1992年12.20
  6. バリオ・ホール
  1. 光の残像 signals to those unknown The Remains of the Light ー signals to those unknown
  2. ピアノ
  3. 9分
  4. 大竹紀子委嘱作品
  5. 1992.12.5
  6. サントリーホール小ホール
  1. 球形の悔過 Spherical Penitence
  2. 聲明16名、笙2、打楽器2
  3. 90分
  4. 国立劇場委嘱作品
  5. 1992.11.13
  6. 国立劇場小劇場
  1. 濤韻"let the wave---"ー二十絃箏のために To-in "let the wave---"
  2. 二十絃箏
  3. 12分
  4. 吉村七重委嘱作品
  5. 1992.10.5
  6. 東京FMホール
  1. 風鐸ーヴァイオリンと打楽器のための Timeless Bells in the Wind
  2. ヴァイオリン、打楽器
  3. 8分
  4. 木村まり委嘱作品
  5. 1992.2.17
  6. カザルス・ホール
  1. 流砂ーギター・デュオのための Quicksand
  2. ギター2
  3. 10分
  4. 小原安正追悼コンサート委嘱作品
  5. 1992.2.9
  6. こまばエミナース



<1991年作品>

  1. 砂の都市 City of Sand in a Labyrinth
  2. ソプラノ、ピアノ、シンセサイザー、打楽器2
  3. 15分
  4. インターリンク・フェスティバル委嘱作品
  5. 991.11.20
  6. カザルス・ホール
  1. バレエ「新当麻曼荼羅」組曲ーピアノのための Mandala Suite for piano
  2. ピアノ
  3. 15分
  4. 蛭多令子委嘱作品
  5. 1991.9.14
  6. 京都府立府民ホール・アルティ
  1. 天問ー屈原詩による Query to the Cosmos
  2. 常磐津唄2、長唄2、三味線2、箏2、十七絃2、打楽器2
  3. 20分
  4. 国立劇場委嘱作品
  5. 1991.6.27
  6. 国立劇場小劇場



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