早いもので、御園竹便りNo.1を皆様にお届けしたのが昨 年の六月の下旬であり、先月の13号で二年目に入った。 毎月よくも雑文を書き連ねたものであると我ながらあき れている。それよりも毎回、おつきあいにしても我慢し て眼を通して下さっている皆様に対して心から御礼申し 上げます。
先ほど以前の便りに眼を通してみると、第一号に書いた のが初呑切り(はつのみきり)であった。今年もつい先日 初呑み切りを行った。どのタンクの中の酒も健全に貯蔵 され熟成されて来ているのが確認された。今年も自信を 持って牧水や御園竹を消費者へ供給することができそう である。販売店の皆様にもご安心いただけることであろ う。
さて、呑切りをしていて、昔に較べて貯蔵容器が良くなっ たおかげで酒の貯蔵が非常に楽に、且つ安全になったと つくづく感じた。
今の貯蔵容器のほとんどは、丈夫な鉄製のタンクの表面 をガラスと同じ成分の琺瑯(ホウロウ)で被ったものが使 われている。この琺瑯は大変丈夫なものである。その琺 瑯は、タンクの表面にガラス質の材料が高熱で融解され 焼き付けられたものである。大抵は純白のものであるの で、上から覗くと酒の変化がわかりやすい。
琺瑯タンクは昔の杉の桶のような独特の香りが全くない ため、できた酒の味や香りを純粋にそのまま保つことが できる。また温度の変化をそのまま伝えるため、火入れ をした酒を自然に冷却して、緩やかに室温に近づける事 などができる。また、逆にその外部に冷却剤や冷房機等 を利用して急冷したり、過熟を防ぐことなどもできる。
この様な便利な琺瑯タンクが開発され普及してきたのは、 昭和も一桁の時代という時期であり、全面的に使用され たのは、戦後の昭和二十年代であった。戦後壊滅した軍 需工場や造船工場等の復興に酒の琺瑯タンクの製造が大 いに役に立ったのだと、関係者から聞いたこともある。 それで木桶の時代は昭和三十五年頃までに琺瑯タンクの 時代に世代交代をしたのである。
この様に非常に便利な琺瑯のタンクであるが、長い間使 うには手入れが欠かせない。琺瑯タンクの欠点は、酒造 りの作業中などにタンクの表面に堅いものをぶつけたり すると琺瑯にひびが入り、酒がタンクの鉄と直接触れる。 実は鉄分は日本酒の大敵で、日本酒に色を付けてしまう し、また独特のいやな味が付く。そこで、毎年造りが終 わると、杜氏はタンクを入念に点検し、傷が付いたタン クは貯蔵用に使わずに修理に回す。
夏になると酒造メーカーにはタンクの修理業者が訪れる。 当社では、毎年八月になると島根県の方からタンクを専 門に修理する業者がやってくる。この業者は親子二人で 車に乗って全国を回っている。タンクの修理は、ホウロ ウの表面を削り取り、ガラス繊維の布を貼ってその上を エポキシ樹脂で固める、という方法で行われる。三日以 上もかけて修理されたタンクは、再びその年の秋から酒 造りに使われるのである。
牧水本醸造生酒のビンを一新しました。ビンにも印刷し てありますが、当社の生酒は、一切加熱処理をしていな い「本生」です。届いてすぐに冷蔵庫に入れるなど、管 理が大変ですが、味を追求する当社の姿勢をご理解いた だき、御協力をお願い申しあげます。