おもしろ What's about Be
 第0回Macintoshで動くOSたち

イデア コラボレーションズ 

石田つばさ 

  

「BeFun」の創刊、おめでとうございます。

なんでも、世界初のBeOS専門(CD-ROM)雑誌ということで、世の中にはなんと無謀な(笑い)ことを企画するところがあるのかという驚きもありますが、新しいものに対する挑戦がなければ、おもしろくもないし、進歩飛躍も望めません。

縁あって、私はその雑誌に読者としてだけでなく著者としてもかかわることになりました。 時を同じくして、私の所属する会社もまったく新しい組織体制に生まれ変わりました。 この連載は、本当に新しいものづくしの中でのスタートとなります。 そんな環境の中で、新しい魅力的なOSであるBeOSについて、自分自身も楽しみながら、読者の皆さんと一緒にBeOSの魅力を体験していきたいと思います。

さて、今回は第0回ということで、「Macintosh上で動くOS」ということで、BeOSを取り巻くOSの状況を見てみることにします。


 

 Apple設立20周年

  最近、何かと身辺が騒々しいApple社ですが、今年設立20年を迎えています。 コンピュータ業界は、「2年一昔」などと言われますから、その言い方に従うと、Apple社の設立はすでに十昔前の話しになります。

会社名そのものを冠した「Apple」シリーズ、Appleのユーザインタフェースを方向づけた「Lisa」、Lisaの経験を活かして現在に至るまでAppleを支えてきた「Macintosh」など、AppleのリリースするハードウェアやOSにはユニークで興味深い製品が数多くあります。

●AppleIIコンピュータ●Apple Lisa●初代Macintosh
Apple(II)のイメージ Apple Lisaのイメージ Macintoshのイメージ
最近は、DOS/Vマシンなどとの競争のためのコストダウンの影響もあって、以前ほどユニークなデザインのモデルは少なくなりましたが、この設立20周年を記念してリリースされる「スパルタカス」という限定モデルは、久しぶりに登場した 非常にユニークなデザインのMacintosh です。

●Apple20周年記念モデル「スパルタカス」 
スパルタカスのイメージ スパルタカスのイメージ

コンピュータ本来の機能的、性能的な面では、ハードウェア、ソフトウェアともに斬新といえるようなところはないのですが、このようなデザインのものを今でもリリースできるところが、いかにもAppleらしいといえるでしょう。

 Macintosh上で動くOS

  登場した当初のMacintoshのハードウェアは、特殊な工具がなければきょう体を開けることもできず、内部構造が公開されていないクローズドなシステムでした。 しかし、今ではハードウェアも簡単に分解できる構造になっていたり、DOS/Vマシンと同じPCIカードが使えたり、互換機も登場するといった状況になっています。 現在のMacintoshしか知らない人にとっては、 かつてクローズドなシステムと言われた というのは信じられないことでしょう。

またソフトウェアの面でも、従来MacintoshのOSといえばMacOSに限られていました。しかし、今では「MkLinux」をはじめとする人気の高いPC-UNIXもMacintosh上に移植され、利用できます。 PC-UNIXをMacintoshにインストールすれば、同じMacintoshをワークステーションと同じUNIX環境で利用できます。

また、厳密に言うとOSそのものというわけではありませんが、MacOS上で他のOS環境をエミュレーションするなどして、他のOSの環境やそのOS用のアプリケーションを利用できるようにするものもあります。 たとえば、「Soft Windows」を利用すればMacOS上でWindowsアプリケーションを利用できるようになります。「MachTen」を利用すればMacOS上でUNIXのさまざまな機能やアプリケーションを利用できるようになります。

■Finder上で利用するMachTen

MachTenとFinderデスクトップのイメージ

■MachTenのX Window環境

MachTenのX Windowデスクトップのイメージ

MacOSは、非常に使いやすいユーザインタフェースを持つOSとして高い評価を得ていますが、わざわざMacintoshでMacOS以外のOSを利用したりする必要があるのでしょうか。

OSは、アプリケーションプログラムとハードウェアとの間にたって、プログラムから各種のデバイスを利用する手助けをします。 OSのサポートによっては、必要なハードウェアを利用できない、あるいは利用できたとしてもハードウェアの性能を引き出すことができない、といったことが起こります。 もちろん、特定のOSにのみ対応しているアプリケーションが必要であれば、そのOSを利用せざるをえません。

さらに、最近ではOSといったときに、各種のユーティリティ、GUIやデスクトップ環境まで含んだものとして考えることが多くなってきています。 すると、プログラムから見たOSのサービスだけでなく、エンドユーザが見た画面の表示や操作感までもOSの評価として考えられるようになります。 ユーザインタフェースや操作感については、ユーザの好みが強く出るところなので、これを好みのものに変えられるのはメリットといえるかもしれません。

もちろん、MacOSだけで必要とするすべての作業ができるのであれば、何も無理をして他のOSを利用することはありません。 しかし、MacOSがサポートしていない機能が必要となった場合には、OSを入れ換えてしまえば、ハードウェア投資はなしでまったく異なる環境を利用できるようになります。 たとえば、インターネットサーバとしてはやはりUNIXに一日の長があると言われています。 UNIXといえばワークステーションというイメージがありますが、そのためだけに高価なワークステーションを導入できないかもしれません。 そこで、一世代前のMacintoshにPC-UNIXをインストールすれば、少ないコストでしっかりとしたインターネットサーバを構築できます。

また、MacOS上に他のOS環境を同時に利用できるタイプであれば、Macintosh用アプリケーションと他のOSのアプリケーションを同時に利用しながら、データを相互にやりとりすることもできます。 たとえば、一台のMacintosh上で、表計算はWindows版のExcelを使い、グラフィックはMacintosh版のIllustratorで、そしてプログラミングはUNIXの環境で...といったことも 可能です。

このように、一台のハードウェアでも、また別の環境を実現できるというのが異なるOSを利用するおもしろさであり、メリットでもあります。

 

 NeXTSTEPそしてRhapsody

  昨年はAppleのNEXT買収という重大ニュースがありました。

NEXTは、Appleの創業者のSteve JobsがAppleを追われて、独立して興した会社ですが、また古巣のAppleに舞い戻ることになったわけです。

NEXTの開発したNeXTハードウェアとそのOSであるNeXTSTEPは、どちらも非常に高い評価を受けました。

ハードウェアのデザインは、図のようにCPU本体がマグネシウム製の黒い立方体という衝撃的なものでした。 いかにも機械の塊といった雰囲気が残ってしまっている一般のコンピュータのデザインに対して、NeXTのハードウェアは美術工芸品としても通用するとか、社長室や応接室、さらに床の間にも置けるデザインと評価されました。 フェラーリは一つ一つのパーツの仕上げの美しさから、車としての実用性だけでなく芸術品としての価値もあるとさえ言われます。 Macintoshは発売当初、その高価さからポルシェに例えられることがありましたが、NeXTは高価さだけでなく美しさからもフェラーリに例えられるかもしれません。

残念ながら、質は高いけれども、非常にコストが高いハードウェアが、販売上は問題になり、後年のハードウェア部門の売却に至ります。

さて、NeXTのもう一方の優れた魅力がOSのNeXTSTEPです。

NeXTSTEPは、GUIベースのデスクトップ環境という点ではMacintoshと似てはいるものの、OSの根幹部分もユーザインタフェースも新しく設計、開発され、Macintoshとは大幅に異なるものとなっていました。

現在ではOSF1、Windows NTなどで採用されているMachマイクロカーネルを商用OSとしていちはやく採用したり、オブジェクト指向技術の導入、ディスプレイPostScriptの採用、インタフェースビルダーなど多くの特徴を備えた、先進的なOSでした。 その後オブジェクト指向ベースのOSというのは、多くのベンダーが研究、開発してきましたが、結局実用化できたベンダーはほとんどなく、SunもMicrosoftもオブジェクト指向環境はOPENSTEPを採用することを表明しています。

さて、AppleのNEXT買収により、NeXTSTEPはRhapsodyとして生まれ変わり、この夏には最初のデベロッパリリースが出る予定になっています。 果たしてRhapsodyはどのようなOSになるのか、興味深いところです。

 

 BeOS

  さて、ようやく本題のBeOSです:-)。

BeOSは、元Appleのジャン・ルイ・ガセーがAppleから独立してBeという会社を創業し、そこでまったく新しく設計、開発されたOSです。

マルチプロセッサ対応のマイクロカーネルやオブジェクト指向環境をはじめとして、さまざまな新しいOS技術が取り入れられています。 また、BeOSは最初はBeBoxという独自のハードウェアとともに販売されました。

このBeBoxも、DOS/V機やMacintoshなどと異なるちょっと変わった雰囲気の外観を持ち、マルチプロセッサ搭載、PCIバスなどの一般的なインタフェースに加えてMIDIやGeekPortなども標準装備と、数々の特徴を持っています。 現在では、独自のハードウェアの製造は中止され、Power Macintosh上で動作するBeOSのみがリリースされています。

と、ここまで書いてくると、前述したNEXTのストーリーに非常に良く似ています。 確かに、このような動向はNEXTと同様に(しかし、はるかに短い期間で!)見えます。 BeOSはOSの技術的な側面でも、かつてのMacintoshやNeXTSTEPに初めて触れたときのような感動とインパクトを多くの人に対して与えています。

マーケティング的な話になると、MacOSがNeXTSTEPベースのRhapsodyのリリースを控えている今、BeOSの将来に対して厳しい評価をする人もいます。 しかし、かつてのNeXTSTEPがそうだったように、新しいOSで実現された魅力的な機能、斬新なアイデアは、他のOSに多大な影響を及ぼすことがあります。 前に、MacintoshでMacOS以外の既存のOSを利用することによる、実用面でのメリットについて書きました。 それに対して、まったく新しい優れたOSに触れることは、現時点では実用面でのメリットはないかもしれませんが、未来に実現されるコンピュータ環境を体験できる可能性があります。 BeOSも、私たちに未来を体験させてくれるOSではないでしょうか...


さて、次回からは実際にBeOSをMacintoshインストールして、その機能と魅力を見ていくことにしましょう。

続く…



脚注

注1:
このデザインを見て、私はコンピュータというよりもB&Oのオーディオ製品を思い出しました。
注2:
MacintoshもDOS/Vと同様に、かなり自由にいじれるようになったかと思っていると、最近のPCの目標は、「ユーザが開けられない、また開けられなくても十分に利用できる」ようにすることだそうです。当初Macintoshが批判を浴びたポイントが目標とは、なんという皮肉!
注3:
この場合、実行速度はかなり低下する場合が多いので、可能ではあっても、実用的であるかどうかはわかりません。