僕はソフトウェアの開発を仕事にしている人間ですから、BeOSにもどちらかといえば開発者の立場から興味を持っています。なんだか面白いアプリケーションを作れそうだし、またこれまでの普通のOSでは作るのが難しかったアプリケーションも、BeOSなら割と簡単に作れるなと思えるからです。

では、ユーザとして見るとBeOSはそれほど面白くないのでしょうか。単にファイルアクセスが早くて、一度にたくさんのアプリケーションを動かせるに過ぎないOSなのでしょうか?そんなことは決してないと思います。かつて、MacintoshがDTPというパーソナルコンピュータの新しい利用分野を開拓し、それによって本を出版するという行為の敷居を下げ、個人がまわりの世界に向けてメッセージを発するためのメディアを作り出したように、BeOSもまた個人の表現活動を助け、個人のための新たな表現メディアを生む可能性を持っていると思うのです。

そして、BeOSが開拓しようとしている分野の一つが、(デジタル・)メディアアートだろうと僕は思っています。これについては、Be社自身も第一のターゲットとして「デジタルメディア・コンテンツ」を挙げていますので、けして外れた見方ではないでしょう。

デジタルメディアを一言でいえば、それはパーソナル・コンピュータおよびその周辺機器から構成される、いわゆるマルチメディアだというのが僕の理解です。データのデジタル化技術によって、絵画や楽器演奏や写真など、従来的なアートの成果物をコンピュータ上に取り込んで加工や混合したり、さらには直接コンピュータの上でそれらを生成することすら可能になってきましたが、そうした、デジタル化されたことで比較的簡単に組み合わせて利用できるようになった様々な表現手段(および道具)を指してデジタルメディアと呼んでいるのだと思います。

なお、ここでいう(デジタル・)メディアアートとは、デジタルメディアの利用によって可能になった、様々な表現手段を駆使したアートのことです。最近身近になったデジタルメディアの一つにデジカメがありますよね。

さて、ここまで読んで「そんなの昔からあったじゃん。」と思われた方がいらっしゃるかも知れません。その通りです。しかし、これらは昔からあっても、ほんの最近まで個人の手には入らなかったものではないでしょうか。ならば、今まさに作られつつあると考えてよいのではないでしょうか?Macintosh誕生の昔にかえって考えてみると、けしてGUIはMacintoshが創造したものではありませんし、DTPだってそうです。それらの技術はMacintosh以前から存在していたんです。しかし、Macintoshによって個人が使えるものとして僕たちに提示され、そのときにパーソナルコンピュータの歴史へ加わえられたのです。そうして、今度はBeOSがデジタルメディアを僕たちの手元に届けようとしている・・・といったらこじつけだと笑いますか?

「BeOSを使わなくてもMacOSで十分だよ。」そうでしょうか?Photoshopがあれば、あるいはGraphic Converterがあれば写真や画像のレタッチは簡単にできるし、サウンドや動画像だってQuickTimeがあればいい。ほんとにそうでしょうか?メディアアートの作品制作のために最新最速のMacintoshを買い求め、さらには馬鹿みたいにメモリを増設することにお金を費やすのは、果たして個人の手が届く範囲のことなのでしょうか?

既に、時代は新たな世代のシステムを欲しているように思えます。