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12センチ・ギガメディアの夢と野望 DVD
ひと呼吸ついて、男は眼光鋭く私の目をまっすぐに見ながら、言った。 「12センチ・ディスクで映画を見るという考えを世界で初めて発想した人は誰だか、 知っているかね……」。 1996年4月、私は、ハリウッドのタイム・ワーナー・ホーム・ビデオ本社にて、 ウォーレン・リーバファーブ社長にインタビューしていた。取材中に、逆に相手に質 問されるほど、戸惑うことはない。 「いいえ、分かりませんが……」。 「それは、この私だよ。コスト、クォリティ、発展性で、VHSを上回り、さらに面 自いメディアを作り出さなければならないと、思い立ったのだ」。 私もさまざまな取材現場を経験しているが、ことリーバファーブほど自信に満ち、 しかも、それを臆すことなく言ってのける男は、他に知らない。 それからリーバファーブは、1985年にDVDの原型のコンセプトを思いついて から現在までの長い道程を滔々と語った。詳しくは本文を参照願いたいが、そんな個 人の野心から生まれた「12センチの夢」が、いま、世界中の電気メーカー、コンピュ ータ・メーカーに伝搬し、時代の最先端のテクノロジーを吸取し、ホーム・エンター テインメントに新たなる魅カを振り撒き、マルチメディアを改革している。
それは外見は単なる銀色盤だが、ある時は、映画を収録するディスクとなる。 またある時には、コンピュータ・データが入り、それは高密度なCD−ROMになる。 別のディスクはゲームだ。また別の12センチには、現在のCDよりはるかに生々しい サウンドが収容されている。さらに、同じ大きさの記録可能なディスクもある。 つまりDVDとは、現在のコンパクトディスク、レーザーディスク、VHSソフト、 CD−ROM、ゲームというすべてのソフト分野を一手に引受け、さらにそれらの相 互のクロスオーバーにより、新しいメディア融合の世界を開拓するという巨大なパッ ケージなのである。2000年には10兆円の市場になるという。 だから、このちっちゃな円盤に数え切れない男たちの夢と野望が寄せられるのも当 然のことではないか。銀の虹に輝くリフレクションを凝視していると、そこには数え 切れないほどの男たちの〈思い〉が、さまざまな光と影に姿を変えながら見え隠れす る気がする。 この本はそんなDVDの過去・現在・未来を語る壮大なる技術の大河ドラマである。
1996年7月 麻倉怜士
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| 麻倉怜士(あさくら・れいじ)
1950年生まれ。1973年横浜市立大学・国際関係学科卒。
日本経済新聞社を経て、プレジデント社入社。 |