ADSLとISDNの干渉はなぜ起きるのでしょうか?
まずADSLですが,ADSLは電話局と利用者間のメタル回線をそのまま利用し,加入者回線(アナログ回線)の音声通話に利用されない高い帯域を利用してデータ通信を行う方式です。アナログ回線で音声通話が利用される帯域は0〜4kHz程度であり,ADSLでは音声通話ではまったく利用されない25kHz以上の帯域を利用します。正確には最大1.5MbpsのG.liteでは25kHz〜550kHz,最大8MbpsのG.dmtでは25kHz〜1104kHzの帯域を利用します。
ISDN,正確にはメタル線を用いた国内のINS64サービス(INS1500は光ファイバーですから,ADSLには原則として干渉しません)はどちらかといえば方式が古く,符号化の効率が悪いうえに,送受信も交互に行う方式なので,0〜320kHzと広い帯域を使用します。欧米で採用されているISDNの0〜90/80kHzと比較しても大幅に広い帯域を利用しており,これがISDN回線ではADSLが利用できない理由です。G.liteで利用する帯域の半分以上をISDNが利用してしまうことになりますから,ISDN回線では1本のメタル線で重複してADSLを利用することができません。
さて本題の干渉ですが,これもISDNが広帯域を利用することが問題です。電話局と利用者間はメタル線がある程度束ねられており(束ねた単位をカッドといいます),アナログ回線もISDN回線もとくに区別なく同一カッド内に混在しています。近くにあるメタル線同士は当然信号が漏洩して干渉しますから,同一カッド内はもちろん隣り合ったカッド内のISDN回線もADSL信号に影響を与えるといわれています。また,単純に考えれば320kHzまでしかISDN回線の信号は影響しないように思えますが,実際には320kHzより高い帯域での高調波ノイズもあり,広くADSLの帯域に干渉します。ISDN回線はアナログ回線に比較して信号が強いのも,干渉の大きな原因の一つです。
なお,日本仕様のADSLであるAnnex.CではISDN回線との干渉を最小限にとどめるため,ISDN回線が送受信を切り替えるタイミングに合わせてデータの送受信量を調整しています。ISDN回線でデータを受信している場合と送信している場合で信号の干渉状況は定期的に変化するので,この変化に合わせてデータの送受信量を変更すれば,ISDN回線からの干渉を最小限に抑えることが可能だからです。(坪山博貴)
図 電話回線(紙絶縁ケーブル)の構造(総務省の資料による)