現在,HDDの購入を考えています。IDE HDDとSCSI HDDのどちらを選択したらよいでしょうか。Ultra ATAにしてもUltra Wide SCSIにしても大変高速なインタフェースであるため,性能面でどちらが有利なのかはっきりしないのです。
「迷ったらSCSIを選べ」という定説が昔からありますが,IDEがパフォーマンス面や使い勝手の面で大きな躍進を遂げた今日,必ずしも当てはまる時代ではなくなりました。Ultra ATA(最大転送レート33MB/sec)そしてUltra Wide SCSI(同40MB/sec)ともに,最新HDDの実効速度(内部転送レート)を十分にカバーできるだけのバンド幅を持っています。ですから,単にインタフェースの転送レートだけで優劣を決めてしまうのは無意味です。また以前,SCSI HDDしか大容量HDDが存在しなかった時期がありましたが,現在はIDE HDDでも8GBを超えるような大容量製品が登場していますから,容量面においても決して見劣りしません。
さらに,IDE HDDではCPU負荷の高いPIO転送しか行えないという欠点がありましたが,インテルのTriton(430FX)チップセットの登場以来,DMA(バスマスタ)転送もサポートされています。昔から唱えられてきたSCSIの優位説は,IDEの高性能化と高機能化によって崩れてきているといっても過言ではなく,従来のように優劣を簡単に決められなくなりました。
IDE(Ultra ATA)にするかSCSI(Ultra Wide SCSI)にするかは,どのような環境でどのような使い方をするかにかかっています。IDEにもSCSIにもそれぞれ長所と短所がありますが,用途によって長所をどちらがより多く引き出せるかということです。
筆者の経験によれば,個人で普通に利用するならIDE HDDのほうに大きく分があると考えます。普通というのは非常にあいまいな表現ですが,例えばワープロや表計算ソフト,グラフィックアプリケーション,ゲーム,ネットサーフィンなど多くのユーザーが日常的にやっていることを「普通」と解釈することにします。IDE HDDの大きな特長として,まずIDEインタフェースがチップセットに包含されていることがほとんどのため,別途インタフェースカードを増設しないで済む点が挙げられます。カード代が浮くという出費面でのメリットに加えて,セットアップもSCSIと比較するとかなり簡単になります。SCSIカード増設時に起こりがちなトラブルもありませんから,初心者でもセットアップで迷う部分は少ないでしょう。また,価格が安いこともIDE HDDの大きな特長です。現在,IDE HDDは同容量のSCSI HDDと比較して,約3分の2〜2分の1程度の価格で購入できますので,ある程度大きめの記憶容量を確保するならば,IDE HDDのほうが安上がりです。
一方SCSI HDDは,パフォーマンス面で分があります。例えば,読み書き処理(I/Oトランザクション)の激しいファイルサーバーなどで威力を発揮します。これは,SCSIがコマンドをマルチスレッドで処理できるからです。IDEはUltra ATAといった最新規格も含めて,基本的にシングルスレッドでコマンドを処理していきます。つまり,あるドライブに対して一つのコマンドを発行すると,そのコマンド処理が完了するまで,接続されているどのドライブに対しても次のコマンドが発行できないのです。SCSIならば前に発行されたコマンド処理が完了していなくても,好きなドライブに対して複数のコマンドを順次発行できるため,可能なものから効率よくコマンドを処理していけます。
SCSIのマルチスレッド性は,Windows NTやOS/2 Warp,UNIX系OSといったマルチタスクOSで利用することにより,恩恵にあずかることができます。DOSなどのシングルタスクOS環境下では効果が小さくなります(コマンドのオーバーヘッドのためにSCSIのほうが遅いという結果にもなりかねません)。また,Windows 95はマルチタスクOSという位置づけにはなっていますが,あまりSCSIのマルチスレッド性を生かしきれないようです。
SCSIは,マルチスレッド性に加えてバスアービトレーションと呼ばれる高度な機能も持っています。これは,SCSIバスを調停してSCSIバスを利用するデバイスのペア(イニシエータとターゲット)をうまく選択するために必要な機能です。複数のデバイスを接続した場合に有効に働き,スムースで高速なデータ転送が可能となります。例えば,複数のHDDを接続しているような環境では,SCSI HDDを利用したほうが有利です。最たる例がRAID(Redundant Array of Inexpensive Disks)でしょう。マルチスレッド性とあいまって,IDE HDDでは決して得られないようなパフォーマンスが実現されます(IDEでRAIDを組んだ場合には,実用にならないほどのパフォーマンスしか得られないでしょう)。RAIDは決して一般向けとはいえませんが,動画や音声などの大きなデジタルデータを扱うような場合,データの信頼性を十分確保したい場合など,とくにハイエンドユースで重宝されているシステムです(最近は個人の導入例も増えています)。
以上,IDE HDDとSCSI HDDの長所と短所について簡単に触れてきました。表にSCSIとIDEインタフェースの長所と短所をまとめておきましたので,参考にしてください。
HDDを選択するためには,まずどのような環境でどのような使い方をするのかはっきりと決めることが肝要です。
(伊勢雅英)
SCSIとIDEインターフェースの長所と短所
SCSI
長所
・接続可能なデバイス数が多い(UWではホストアダプタをのぞいて15台まで)
・接続可能なデバイスの種類が多い
・コマンドがマルチスレッド処理
・最高パフォーマンスの製品はSCSI用だけ発売されることが多い。
短所
・SCSIカードが別途必要
・IDEデバイスよりも高価
・セットアップがSCSIよりも複雑
IDE
長所
・デバイスの価格がSCSIのものよりも低価格
・セットアップがSCSIよりも楽
短所
・接続可能なデバイス数が少ない(最大4台,外付けは不可)
・接続可能なデバイスの種類が限られている
(ただし最近は,MO,PD,テープドライブなどかなり増えてきている
・コマンドがシングルスレッド処理