15章  分数コードとは
 バンド譜とかで、「C/G」とか、「A/G7」などのよう な、分数の形で表示されるコードを一度ぐらいは見かけたこと があるかと思います。これは分数コードと呼ばれます。  これまたイヤなことに、これにはいくつか種類があります。 表記が同じでも意味が違うというもので、ややこしいというよ りはむしろ、ぱっと見で構成音がわからない、何を押さえれば 良いか混乱する、というちょっとタチが悪いコードです。これ らは大略次のように分類されます。 1)分子がコード、分母が単音(ベース) 2)分子がコード、分母もコード  馴染みの深いのは1でしょう。C/Gのように、Cのコード を転回して(あるいはGだけオクターブ下げて)5度のGがボ トムになったやつなどが代表例です(転回形)。しかしこれだ けが分数コードだと思っているとA/G7などというものにぶ つかって面食らうことになります。  では順に解説していきます。
1)分子がコード、分母がベースの分数コード
 単音のルートにコードが乗ったものです。さっきのC/Gの ような転回形(ルート以外の構成音をベースに持ってきた形)、 さらにコード構成以外の音(主にテンション)をベースに持つ コードの2種類に分かれます。後述の複合コードと区別するた め「ConG」と表記されることも多いです。すでに講座内でも フライングで使ってきた分数コードは「〜 on Bass」表記です ので以後この表記に従うことにしましょう。 ● 転回形を使った進行=非対応メニューです ◎ ソースを見る  こんな進行、一度ぐらいは聴いたことがあるでしょう。転回 形はこのサンプルのように、ベースの順次的な流れを作りたい 時などによく使います。他にはメロディとベースの音がかぶっ た時にボトムをずらしてみるなど。いずれも、あるコードの流 れの中で、ある恣意に基づくベースラインを作る時に、コード 構成音のルート以外の音をボトムに指定してやるわけです。理 屈は簡単ですが、コードサウンドが体に染みついてないと、実 際に音を出してみないとわかりづらいという意味では結構使い 方が難しかったりします。  あとはドミナント7thコードの7度ベース(C7onBb)なども よく使われます。 ● IVonV(IImonV)スタイル=非対応メニューです ◎ ソースを見る  次に転回形以外の分子コード/分母ベースのコードですが、 もっとも有名なのが、FonGのようなコードです。とりあえず IVonV(IImonV)スタイルと呼んでおきましょう。過去の講座 でもたびたび使ってきましたが、この形は、ドミナント代理と するのが一般的です。コード機能でいうとサブドミナントonド ミナントであり、このサブドミナントIVの代理コードを使う IImonVはほとんど同一のコードとして扱われます。 IVonV(IImonV)-I進行はV7-Iと違ってトライトーンの解決 を経ないドミナントモーションとなります。サウンド的にはト ライトーン独特の臭みのない穏やかな響きです。聴き比べてみ てください。 ● V7-I=非対応メニューです ◎ ソースを見る ● IVonV-I=非対応メニューです ◎ ソースを見る ● V7-Im=非対応メニューです ◎ ソースを見る ● IVonV-Im=非対応メニューです ◎ ソースを見る  なおマイナーキーのIVonV-Imは、IVonV部分においてスケール 外音のナチュラル6度(ドリアンモードの音)を含むのでメロ ディとのぶつかりに注意。  また、このコード特有の浮遊感のある響き(ルートから見て 機能音がないため)に目をつけ、これを平行移動させて遊んだ りします。実際、それだけで作られた曲などもありますが(例: ハービー・ハンコック「処女航海」)、このコードの活用につ いては後ほど紹介します。  以上2種類は、分子、分母いずれもある1つの調性の枠組み におさまっているコードですが、逆にこれを無視して分子/分 母をデタラメに組み合わせたノンダイアトニックな分数コード というのも破壊的で面白いです。これを作る自体は、ConAな どの、分数コードのサウンドとして意味がないもの(ただの Am7)を避けた上で、好き勝手に分子/分母を選んでいけば いいので簡単ですが、こうしてできたデタラメ分数コードの連 続は、斬新で先が読めないのはいいのですが、気持ちいいパタ ーンにするのは難しいと思います。また、その上にメロディを 乗せるのが半端じゃなくキツイのも欠点です。勢いヘンなメロ ディになるでしょうから、メロディレスでムードだけ作る、と いうシーケンスが無難でしょうか。参考になるかわかりません がいくつかパターンを挙げておきます。 ● ノンダイアトニック分数コード1=非対応メニューです ◎ ソースを見る ● ノンダイアトニック分数コード2=非対応メニューです ◎ ソースを見る
2)分子、分母の両方がコードの分数コード
 複合コード、2階建てコードと呼ばれるものです。コードの 上にさらに違うコードが乗るものです。想像どおり、ものすご い音だらけのコードですが、ジャズ系の音楽以外ではほとんど 使われることはないでしょう。実際、音が多すぎてコード感が よくわからん事態にも陥りがちなようです。  基本的には、「G7(b9,#11,13)」などのように複雑化しす ぎたテンション表記を簡潔にするため、これをコード/コード の形にまとめたものです。テンションがちょうどわかりやすい 3和音にあたるため、これをコードとして分子の部分に書くわ けです(「G7(b9,#11,13)=Dbm/G7」)。このような上 部構造のコードをアッパーストラクチャートライアド(UST) といいますが、別に覚えなくてもいいです。  詳しい解説ははしょって、サンプル紹介にとどめておきます。 ● USTサンプル=非対応メニューです ◎ ソースを見る
ちょっと整理
 ひとくちに分数コードといってもこれだけの意味の違いがあ ります。分子と分母の音数という関係で大まかに分けたのが2 グループ、さらに細かく見れば、 ・転回形 ・IVonV(IImonV) ・ノンダイアトニック分数コード ・UST  と4つの概念を紹介しました。もっと細かいことを言えば、 分子コード/単音ボトムの分数コードでもUSTの土台コード の構成音省略形(音をすっきりさせるため間引く)である場合 もあったりしますが、この辺りの原理ばかり書いても余計わけ がわからなくなると思いますのであまり突っ込まないことにし ます。原理より使い方を見てもらえれば手っとり早いです。分 数コードの活用は次章にて。  おそらく最もややこしいのは分母が単音なのかコードなのか 判断に苦しむという点でしょう。表記が一緒とは、どこをどう 間違ったんでしょうかね。 (EOF)