C D 評 村治佳織 「アランフェス協奏曲」 ビクター VICC-60154 2000年3月23日発売 定価3045円
収録曲 []内はトラック番号 アランフェス協奏曲:ロドリーゴ [1] 1・アレグロ・コン・スピリト [2] 2・アダージョ [3] 3・アレグロ・ジェンティーレ [4]ギターと弦楽のためのセレナード:アーノルド ギター協奏曲 第1番 二長調 作品99:カステルヌオーヴォ=テデスコ [5] 1・アレグレット [6] 2・アンダンティーノ・アッラ・ロマンツァ [7] 3・リコミコ・エ・カヴァレレスコ [8]タンゴ・アン・スカイ ーギターと弦楽合奏版ー:ディアンス 註:曲名等の表記は、村治佳織オフィシャルホームページ (www.jvcmusic.co.jp/muraji/)の表記による
テレビ番組への出演やCM等での露出もあり、最近では知らない人もいない のではないかとさえ思われる女性ギタリスト、村治佳織の最新作である。 もっとも、このCDは相当売れているうえに、様々な場所で紹介されている ようなので、いまさら評するまでもないか、との感もある。が、枯れ木も山の 賑わい、くわえて電クラの残りの期間は「何でもあり」状態で投稿受付中との ことなので、屋上屋を架することも恐れず書いてしまうことにする。 結論から書けば、これは、彼女のイメージ同様に、きわめてチャーミングな 一枚であるといえる。 例えば録音は、比較的間接音成分が多目(それが録音によるものなのか、そ もそもホールの特性であるのかは私の知るところではないが)となっている。 そのため、輪郭のカチッとした音を好む方にはあまり好ましくは受け止められ ないかも知れない。 が、反面、周り中から音が響いてくるこの感じは、(大仰な表現となって恐 縮だが)さわやかな音楽の風が吹く、美という名前の澄明な空間に包まれてい るという解釈も許すものであり、とすれば、この傾向は前述のような村治佳織 のキャラクターに相応しいとも言い得る。したがって、狙いとしては正しいと 評せるだろう。 また演奏も、例えばマルタ・アルゲリッチ(彼女はギターではないが)のよ うに、激しい情念と天与の才をもって音を叩き込む、というものではない。寧 ろ、音符一つ一つへの細やかな気配りや、若く瑞々しい感性で音楽を紡いでい く、といったタイプである。 さらに付け加えれば、もう一段オーケストラとのかけあいが深くても良かっ たのではないかとの印象がある。 しかしながら、これとても「たるい」というわけでもなく、無理にスケール の大きな演奏を繕おうとすることなく、自らの演奏に真摯に徹していると考え れば、その誠実さも評価に値するだろう。そうでなくとも、「さわやか」、 「チャーミング」な彼女の路線(彼女の指向するところであるかは別にして) を考えれば、これはきわめて妥当である。 また、天才的な才気のほとばしる名演奏が必ずしも万人に望ましい音楽では ない点からすれば、この方が多くの人にとって良いことであるといえるかもし れない。個人的な好みからしても、最近ではあまり激しい演奏などは聴く気力 も受け止めるだけの体力も持たなくなった私には、このくらいがちょうど良い。 以上記したように、このCDは、その演奏の凄まじいばかりの天才に慄然と したり、音楽の持つデモーニッシュな魅力に酔いしれたりといった類のカタル シスを望むべきものではない。 一方で、そのセンス良くまとまったチャーミングな演奏は、毎日の生活のな かで安心して聴くことの出来る、聴いていて何となく幸せな気分を感じさせて くれるものであろう。 俗な話をすれば、売り上げから察するに、このCDの購入者には、普段はク ラシック音楽とは近しくない人も多くいることだろうが、そうした方々のクラ シック音楽、ないしギター協奏曲の入門編としては、まさに格好の一枚といえ る。 そういった意味で、これは間違いなく「いいCD」である。 おそらく最大の問題は、家に戻れば私のリスニング環境の主体が「安物CD ラジカセ(シャープ製)」である、ということになるだろうか。 衝動買い度:8 録音:8 俺度:9 お勧め度:7 <愛知県 P.N. HAZUKI>
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