CASE-XXX
SHINJI/KAWORU




一日が長くて仕方がなっかった。
自分が蒔いた種とはいえ。




カヲル君は結局、昨日僕が先に帰ってしまったことについては
何も言っては来なかった。
やっぱりね、といった感じ。カヲル君にとって僕はその程度の存在、
その程度の価値しかない人間なんだ。
それならそれでいい。
変に期待を何時までも抱いているよりは、そのほうがいっそすっきりするさ。
今までもそうだったように、カヲル君が来る前までのようにしていればいいだけ。
小さく溜息を吐き、僕は靴箱から靴を取りだした。
幸いにも金曜日。
少なくとも、明日から二日間はカヲル君の顔を見なくて済む。
一日中寝ていれば何も考えなくていい。
週休二日に感謝しなくては。







「シンジ君、」
ぼーとしていた僕は、急に肩を叩かれ驚いて靴を落としてしまった。
「カ・・・カヲル君・・・・!」
振り向くと、そこにカヲル君が相変わらずの笑顔で立っていた。
いつの間に?
「週末だよシンジ君、今日は僕のところに来るよね、」
「・・・・・え、・・・あの・・・」
「今、鞄を取ってくるから待ってて、」
「あの、カヲル君・・・・」
カヲル君は僕の呼び掛けに振り返ることなく行ってしまった。




強引。




僕に予定があるかなんてこと、考えてないみたいだ。
勿論、そんなものはないけど。
カヲル君はそんな事も、お見通しなんだ。



・・・・・・なんだか、ブルー入っちゃったな。



そう、僕はカヲル君がいなければ、放課後の約束をするような友人もいない。
やっぱり人と付き合うのは苦手だから。
仕方のないこと?
でも、それなら何故カヲル君はいいんだろう。
今だって行きたく無いのならさっさと帰ればいいものを、
どうして僕はこうやってカヲル君を待っているんだろう。
それにカヲル君は、どうして僕なんかを誘うんだろう?
僕といて楽しいのかな?




「おまたせ、シンジ君、・・・・・じゃあ、帰ろうか、」




そんな事を考えていたら、カヲル君が戻ってきた。
僕たちは並んで歩きだしたけれど、何も話すこともなくただ黙っていた。
こんな状態でカヲル君の処に行ってどうするっていうのかな。
何が楽しいんだろう。
僕も、カヲル君も。
僕はちらり、とカヲル君を見た。
カヲル君は心持ち俯いて歩いているように見える。
何を考えているんだろう?
僕はカヲル君がよく解らない。





やがて僕たちはカヲル君のマンションについた。
高校生の独り暮らしにしては、ちょっと良すぎるマンション。
独り暮らしってだけでも羨ましいのに。
そう言えばどうしてカヲル君は独り暮らしをしているんだろう。
その訳を話してくれたことはない。
良く考えれば、僕はカヲル君のこと何にも知らないんだ。
本当にただ一緒にいるだけなんだ、僕たちは。
自分のつま先を見詰めながら、僕の心は重くなる。




「どうしたの、シンジ君?上がらないのかい?」
ここまで来たからには、そうするよ。
今更帰るっていうのもなんだしね。
「・・・・おじゃまします・・・・」




僕はもそもそと靴を脱ぎ、カヲル君の部屋に上がった。
何度も来ているはずなのに、今日は何だか知らない部屋のように感じる。
僕はいつもの場所に座る。
初めてカヲル君の部屋に来たときから、この場所に僕は座っている。
一番出口に近い席。
すぐに、ここから逃げだせる席。
最初はそのつもりで座っていたんだ。
けれど、いつの間にかそこが僕には居心地のいい特別な席になってた。





カヲル君が珈琲を淹れてくれた。
そして、僕の前に座る。
真面目な顔。
何だろう。
急に。
嫌な話だったらどうしよう。
僕は落着かない気分になる。
「・・・・・シンジ君に渡さなければならないものがあるんだ。」
カヲル君はそう言うと、僕に薄水色の封筒を差し出した。
「・・・・・?」
何だろう。
僕は封筒を受け取ると、その封を開けた。
小さな細い字で書かれた手紙は僕宛。





これ・・・・これって・・・・





「このあいだ、中等部の女の子から預かったんだ。
シンジ君に渡してほしいって・・・・」
この間??
中等部の女の子?
じゃあ、あの時僕が見たのは、これ?
この子は僕が好き・・・・なんだ。
カヲル君じゃなくて。
あの時の真剣な眼差しは、僕に向けられていたのか。
なんだか恥ずかしいような、嬉しいような気分。
こんな僕でも、好きになってくれる子がいるんだ。
カヲル君と一緒にいても、僕の方を見てくれている人もいる。
逸る心を押さえきれず、僕は手紙を読む。
知らず知らずのうちに顔が笑ってしまう。
僕にとって、初めてのラブレター・・・・




でも・・・・
ちょっと・・・・・




不思議だな、
誰か、違う人に書かれた手紙を読んでいる感じ。
ここに書かれている僕は、まるで僕じゃないみたいだ。



僕はこんなにいい人じゃないよ。



浮かれていた僕の気持ちが、だんだん沈んでくる。
この子は本当の僕を知ったらどうするんだろう。
きっと、こんなふうに好きになってはくれないんだ。
折角もらった手紙なのに。
もう嬉しくなかった。
僕は折ってあった通りに手紙を戻し、封筒をテーブル置いた。
珈琲を一口飲む。




「・・・・シンジ君・・・・どうしたんだい?」
カヲル君が僕を覗き込んだ。
「・・・・・折角貰った手紙なのに、嬉しくないんだ。
なんだか、この手紙に書かれている僕は僕じゃないみたいで、
この子が思っているように、僕は優しくもないし、しっかりもしていないよ。」
「・・・・・じゃあ、本当のシンジ君はどんなシンジ君なの・・・・?」
「本当の・・・・僕・・・・?」
本当の僕・・・・・
なりたいと思っている、そうありたいと思っている僕と反対なのが今の僕。
「本当の僕は、弱くて・・・・何も出来なくて・・・・
嫌なことから逃げてばかりで・・・・それで・・・・・」
「それで・・・?」
「そのくせ、人から良く見られようと思ってる・・・・それに比べて
カヲル君は何でも出来て、しっかりしてて・・・・皆から信頼されて、」
カヲル君はなりたいと思っている僕を、全部持っている。
羨ましい。
僕もカヲル君のようになりたい。
「・・・・僕だって出来ないこともあるし、弱い部分もあるよ。
自分が嫌になるときだってある・・・・」
「そんなこと・・・・・あるの?」
そんなことを考えるなんて、変なの。
カヲル君には、何もひどいことなんてないのに。
僕はカヲル君をみた。






どき・・・・・






カヲル君が僕を見ている。
いつものカヲル君じゃ無いみたいだ。
なんだかあせっちゃうな。
「だ・・・・だって、カヲル君はもてるし・・・・・」
「シンジ君は女の子に好かれたいの?」
「え・・・・そ、そんな・・・っていうか・・・・・」
僕はなんて答えたらいいのか分からない。
そりゃ、好かれないよりは好かれたほうがいいに決まってる。
でも・・・・
本当に大事なのはそんな事じゃないんだけど・・・・
「シンジ君は・・・・・好きな人がいるのかい?」
「え・・・・?」
突然何を聞くんだろう、カヲル君。
好きな人・・・・・
いるよ、多分。
でも、どうなんだろう。カヲル君のいう好きとは違うのかも知れない。







「僕は・・・・・いるよ、」






えっ・・・・・・
カヲル君、いまなんて言ったの?
好きな人がいるって・・・・言ったの?
カヲル君の好きな人




誰・・・・・?
それは、誰・・・・・?



どうして、僕はこんなにどきどきしているんだろう。
ショック・・・だ・・・・




「い・・・・るんだ・・・・好きな人・・・・」
僕は漸くそれだけ言った。
当たり前だ。カヲル君にだって好きな人ぐらいいるよ。
だけど・・・・・
今まで考えたこともなかった。




僕の頭の中がぐるぐるしている最中、カヲル君が立ち上がり
僕の側に来た。
でも、僕はそんな近くまでカヲル君が来ていたことに気が付かなかった。
「シンジ君・・・・・・」
「な・・・に?」
名前を呼ばれて振り向くと、驚くほど近くにカヲル君の顔がある。
無理やり作った、僕の笑顔が固まる。
カヲル君の紅い瞳だ。
随分近くに・・・・・
僕がそう思ったとき、カヲル君の口唇が僕の口唇と触れあった。



「・・・・!」



何が起きたのか理解する前に、カヲル君の舌が僕の口の中に
入って来る。



どういうこと?どういうこと?



「んうっ・・・・・ん・・・・!」
カヲル君が僕に体重を掛けてくる。
強く押される形になり、カヲル君を支えきれなくなった僕は、
そのまま床に背中をつけた。
カヲル君は僕から口唇を離そうとはしない。
むしろ、横になったことでより強く口唇を合わせて来た。
僕の舌とカヲル君の舌が絡みあう。
ぬるっとしてる同じ体温。
でも、気持ち悪くはない。
カヲル君は僕の舌を強く吸い上げ、軽く歯を立てた。



変な気分、どうしよう・・・・・・



ゆっくりカヲル君の口唇が離れていく。
唾液が糸を引いた。
僕は驚いたままの眼差しで、カヲル君を見る。
今までに見たことないような顔を、カヲル君はしていた。
悲しいの?
何、それはどういう意味があるのさ?
「もうこれ以上我慢できないんだ・・・・・シンジ君・・・・」
「・・・・・な・・・・に・・・・何を・・・・?」
擦れた僕の声。
カヲル君の指が僕の口唇をなぞる。
何がいいたいんだろう、カヲル君・・・・
カヲル君が僕の耳元に口唇を寄せる。
カヲル君の吐きだす息が耳にかかり、僕は体を震わせた。
「シンジ君が・・・・・抱きたい・・・・」
「え?」





ダキタイ?
抱きたいって?
誰を?
僕を?
誰が?
カヲル君が?





カヲル君が僕の耳に歯を立てた。
「やっ・・・・・!」
僕は思わず体を竦める。
「シンジ君・・・・・・・・」
カヲル君はそのまま、僕の首筋に口唇を移動させてきた。
くすぐったい。
僕は身を捩ってカヲル君の下から這い出そうとしたけれど、
思った以上の力で、手も足もカヲル君に抱き込まれていた。
「カ・・・・・カヲルく・・ん・・・・!」
ついにカヲル君は、僕の胸元にまでその口唇を滑らせて来た。
僕の心臓が早鐘のように打っている。
耳の中に心臓があるみたいに感じる。
冗談にしてはあんまりだ。






これから起こること。
僕はカヲル君の言う、抱きたいという意味を必死に考える。
この状況で抱きたいって言われたら、アレしかないじゃないか。





カヲル君は僕を・・・・
本気なのか・・・・な?
でも、どうするんだろう?
僕たちの体はそういうふうには出来ていないのに・・・・





カヲル君は僕のシャツの釦に手をかけた。
器用に素早く釦が外されてく。
さも当たり前のように、カヲル君は僕の体を開いてる。
カヲル君の舌が僕の体を這い回って、全身に鳥肌がたった。
その上、胸の突起に歯を立てられ、その妖しい感覚に僕の背中が反り返る。
「・・・・やぁっ・・ああっ・・・カヲル・・・くっ・・ん!」
僕が思わず声を上げると、カヲル君は僕の顔を覗き込み微笑んだ。
そして、もう一度口唇を合わせてくる。
さっきよりもずっと深く。
そのままの状態で、カヲル君はなんの躊躇いもなく僕のズボンに
手を侵入させて来た。
下着の中の無防備なそこを、直接掴まれる。
「・・・・・・!!」
僕は体を堅くした。
カヲル君の指が、そこで緩くきつく動かされる。
即座に僕は反応してしまった。






嫌だ、カヲル君
放してよ・・・・・!





口を塞がれている僕は、声も上げられない。
カヲル君は、僕が思っていた以上に力があった。
僕はカヲル君を押しのけることが出来ない。
どうして?
腕力でも、僕は負けてるのか・・・・
「く・・・・・ふっ・・・・・・・う、う・・・・」
僅かに声が漏れた。





苦しい、苦しいよ、
カヲル君、せめて口は開放してよ・・・・・
じゃないと、苦しくて・・・・・





僕は何度も頚を振って、漸くカヲル君から唇を放すことができた。
「あ・・・・・ふっ・・・・やっ・・・・ああっっ・・・」
僕の意志には関係なく、声が出てしまう。
気持ちが・・・・・いい
カヲル君の指。
凄い、感じてる。
何でこんなに気持ちがいいんだろう。
カヲル君の手は更に僕を追い詰めてゆく。


このままだと・・・・・


でも、カヲル君からは逃げられない、
カヲル君に押さえられているからじゃない。
快感に僕の頭が鈍くなる。
僕はもうすっかり観念して、カヲル君の指の感覚だけを夢中で
追いかけた。少しも感じ逃さないように。




「あうっ・・・・あああっ、くっ!!ああっはぁ・・・・・!」




僕はカヲル君の手の中に放ってしまった。
そこが微かに震える。
少しの間、放心状態になった。
快感の余韻が、下半身に残ってる。
カヲル君は僕がイッた後も、ゆっくりと指を動かしていた。
自分の放ったもので、ぬるぬるとしている。



「やめ・・・・て・・・・やめてよ・・・カヲル君・・・・・」



カヲル君は何も言わず、動かしていた指を奥に滑らせた。
自分でも触れたことの無い、その部分に指が押し当てられる。
カヲル君の指に力が入った。
僕の中に入れようとしてる?!
「なっ・・・!ちょっと、カヲル君?!」
僕は慌てて腰を引こうとしたけれど、カヲル君はそれを許してはくれない。
カヲル君の指は、僕の体液を潤滑剤にしてあっさりと内部に入り込んだ。
痛みはなかった。
変な感じ・・・・・
カヲル君の指が更に奥を目指し、僕の中を探る。




「ひっ・・・・・・・」




何、これ・・・・
背中の中心を何かが走る。
僕は思わずカヲル君にしがみついた。
どうしようもない感覚が僕の中で弾ける。




「やっ・・・・や・・・・だぁ・・・・!」






「シンジ君・・・・・いいよね・・・・?」
いいって・・・・何を?
返事をする前に、カヲル君は指を引き抜くと僕のズボンを剥ぎ取る。
そして、上半身を起こすと自分のズボンの前を開いた。
僕は直に、この後カヲル君が何をするのか理解した。
「ちょ・・・・ちょっと、まって、カヲル君!」
慌ててカヲル君を押し留める。
僕は怖くなった。
「どうして・・・・・シンジ君・・・・駄目なのかい?」
カヲル君が切なそうな顔をした。そんな顔をされると、僕も弱い。
でも・・・・・
「そうじゃないんだけど・・・・・でも・・・・・」
僕はカヲル君から視線をそらす。
だって、怖いよ、そんな簡単にはいいって言えない。
カヲル君の視線を痛いほど感じる。
そんなに見られたって、困る・・・
「もう待てない・・・・・・」
カヲル君はそう言うと、強引に僕の膝裏をすくいあげた。
「あっ・・・・!いやだ・・・・・!」
カヲル君は僕の全てを暴き立てる。
僕自身知らないそこを、カヲル君に見られる。
恥ずかしい!
カヲル君の重みがずっしりとかかってきた。
さっきまで指を呑まされていたそこに、熱いものが押し当てられる。
明らかに指とは違う。
そして、次に僕を襲ったのは痛みだった。
無理やり僕の中に入って来るカヲル君。
嘘でしょ?!
そんなとこに入れようとしても駄目だよ!
「いっ!・・・・いたぁっ・・・・・いっ!!」


痛い!
痛いよ!


僕はカヲル君の肩を強く掴んでいた。
腰を進めていたカヲル君の動きが止まる。



入っちゃった・・・・・みたいだ。



「シ・・・・・シンジ君・・・・・」
カヲル君が吐息交じりに、僕の名前を呼ぶ。
その声にぞくり、とする。
知らずに僕はカヲル君を締め上げた。
「あううっ!ふうっ・・・くっ・・・・!」
カヲル君が激しく動いて、僕の体が大きく揺さぶられる。
僕は息を止めて、大きくのけ反った。
「いっ・・・・ああっ・・・・・・くぅっ・・・・はあぁぁ!!」
痛みと、訳の分からない感覚とで僕はどうにかなってしまいそうだ。
下半身が自分のものではないみたいだよ。
自分でも意識せず漏れるその声も、僕自身の声では無い感じ。
そんな中時々、カヲル君も小さく声を出す。
その声を聞くたびに僕はカヲル君を感じてしまう。





「カ・・・ヲルく・・・・ん・・・・!」
僕は僕の中に、カヲル君が放った熱いものが体中に染みて
行くのをはっきりと感じた。











カヲル君がぐったりと横になっている僕の頬に触れる。
僕は閉じていた瞼を開いた。
あんなことの後にどんな顔をすればいいのか分からない。
僕は無闇矢鱈に瞬きをしてみせた。
下肢には、鈍い痛み。
ほんとにしちゃったよ。
カヲル君と。





「シンジ君、シュレディンガーの猫だけど、あの実験は実際に
行なわれたわけじゃないから、猫の心配をしなくても平気だよ。」



・・・・・あの時の会話。



カヲル君は覚えていたんだ。
僕は気怠い体をのろのろと起こす。
痛い・・・・・な。やっぱり。
「じゃあ・・・ライカ犬は・・・・・?」
「回収されたよ。」
「本当に?」
「本当に。
ちゃんと僕が回収した・・・・・・」
カヲル君は、物凄く真面目な顔でそう言った。
僕は思わず笑った。
カヲル君は時々、冗談なのか真面目なのか分からないことを言うんだ。





「今日、泊まってゆきなよシンジ君、」
「え・・・・・いいけど・・・・・どうして?」
カヲル君がニヤリと笑う。






「もっとしたいから・・・・シンジ君と・・・・」








嘘・・・・・?
まだ、するの?








CASE-5/6