愛野いずみ
「いらっしゃい、シンジくん」
「久しぶり、元気そうね…」
2人は口々に声をかけます。あまりの懐かしさに、シンジも胸がいっぱいに なりました。
「はい、お久しぶりです。あの…勝手に抜け出したりしてゴメンなさい…」
自分が2人にした事に対して、この2人は何のわだかまりもないように接してくれます。それがシンジには嬉しいようにも、申し訳ないようにも思えるのです。
「いいのよ、そんな事…。こうしてまた元気なシンジくんに会えたんだし」
シンジにとって、やはりこの2人と居るのが一番心をくつろがせてくれるのでした。
「…さ、では学院に向かいましょう」
相変わらずの冷静さで、加持は3人を車に導きました。
「え〜、何よォ、せっかくあの学院から出れたのに!そんな急いで帰る事、ないじゃないのォ。ちょっと、その辺で一杯飲んできましょ〜よぉ〜ん」
加持に反対して、ミサトが声を上げました。リツコも、ミサトには賛同しませんが、決して加持の意見に賛成している顔でもありませんでした。
けれども、シンジには何故この2人がこんなに不服がるのか、この時には理解出来ませんでした。
「そう言えば、トウジくんとケンスケくんも昨日、こちらに着いたそうよ」
車のエンジン音に混じって、リツコの声が響きました。
「え〜?でも、学院は別なんでしょ?」
それに応えてミサトの声。
「いいえ、同じ聖ゼーレ学院でいらっしゃいます」
「あら〜……、シンちゃん、また大変ね…」
加持の言葉に、ミサトもリツコも苦笑しました。
しばらく走ると、閑静な町並みの中に一際静まり返った一角がありました。
それこそが『聖ゼーレ学院』、ミサトとリツコが通う学院であり、シンジが今日から入学する学院でした。
「あ〜あ…またあの灰色の生活が待っているのねぇ〜…(泣)」
「あの…、そんなに酷いとこなの…?」
嘆くミサトに恐る恐る聞いてみずにはいられないシンジでした。
「ええ、恐ろしいくらいにね。もう、規則規則規則…って、私達を縛りつけるのが楽しみみたい…。はぁ…、ユウウツ」
「ミサトがズボラ過ぎるのよ…」
嘆くミサトの横で、リツコは涼しげに吐き捨てました。
「ようこそ、我が聖ゼーレ学院へ」
シンジが通された部屋に声が響き、その声の主は「SOUND ONLY」 と書かれた板きれ1枚でした。
「え?え??」
「私がこの学院の学院長、キールです。我が学院は……」
シンジが学院長室から出られたのは、なんと、3時間も後の事でした。
「はぁ…あの学院長、話が長いなぁ。でも、人がお話してる時に逃げちゃダメだし…」
この学院は全寮制になっており、生徒それぞれに個室があてがわれます。中でも両家の子女には『特別室』が割当られるのでした。特別室は、生徒の間でも憧れで、どんな人が入るのか?という問題は、1番関心を集める的だったのです。
そして、その特別室にはシンジが入る事になったのでした。これも、渚家という名前のお蔭でした。
シンジは、その部屋の素晴らしさに目を廻し、必然的にカヲル大おじさまに感謝の念を抱かざるを得ないのでした。
「コン、コン」
シンジの部屋をノックする人が居ました。
「は、はい…」
シンジが慌ててドアを開けると、そこには一人の女の子が立っていました。
「こんにちは、私、洞木ヒカリ。あなたのお部屋の隣なの。ヨロシクね!」
ヒカリは髪を2つに結んだ、ソバカスのある女の子でした。なんでもハキハキと喋り、シッカリした子です。
「こ、こちらこそヨロシク……」
シンジはおずおずと、差し出されたヒカリの手を握りました。
「特別室、素敵ねぇ〜。いつもどんな人が来るのかと、楽しみにしてたのよ。
あなたみたいな人だったら、ピッタリだわ。いいお友達になれそう」
「あ、ありがと…」
次の日からシンジは、早速ヒカリと共に教室に向かいました。授業の厳しさ、時間厳守という規則にも、ようやく慣れてきたシンジです。
同じクラスには、あのケンスケも居ますが、その苛めにもヒカリが居るから堪えていられました。
その日も、シンジは頑張って時間ぴったりに教室に入りました。普段なら、鐘が鳴り終わるのと同時に授業が始まるのですが、この日に限って先生もまだいらしてません。クラスも、自然とザワザワとざわめいて来ました。
そこへ教室のドアが開き、先生がいらっしゃいました。
「みなさん、静かに。遅くなってすみません。今日は急な転校生が来た為、遅くなりました。これから紹介します。
さ、お入りなさい」
先生が廊下に向かって声をかけました。その声に呼ばれて教室に入って来た転校生は、黒板に堂々と自分の名前を書き、こちらを振り向きました。
「第三新東京市からやってきました。惣流・アスカ・ラングレーです!ヨロシク」
その転校生を見たシンジは、自分の目を疑いました。転校生とは、なんとアスカだったのです!
懐かしいアスカ、会いたかったアスカ。渚家の養子になっても、アスカの事を考えない日は1日とてなかったシンジです。シンジの両の瞳から、涙が零れそうになりました。
「惣流さんの席は、そうですね…、シンジくんの隣がいいでしょう。彼も第三新東京市から来たことだし、何かとお話は合うと思います。
シンジくんも、惣流さんの面倒をよく観てあげて下さい」
「は、はいっ!」
とシンジが返事をする前に、アスカの声は響きました。
「ぇえ〜!バカシンジの隣なのぉ?私、こんなバカの隣はプライドが許さないわっ!」
「仕方ありませんねぇ…。でも、ケンスケくんの隣はヒカリさんだし…」
アスカの言葉にショックを隠せないシンジは、先生の声も耳に入りませんでした。
「はい、先生。私がシンジくんの隣に行きます」
そう言って、シンジの隣にはヒカリが来る事になりました。
「隣に来てくれて、あ、ありがとう…」
シンジは溢れそうな涙を見られまいと庇いながら、ヒカリにやっとの思いで礼を伝えたのでした。
続くわよ〜ん(笑)
★やっぱり厳しいアスカの言葉。その言葉にうちひしがれながらも、シンジは
学院生活を送る。 そんなある日、怪我をしたカオルを救うハメにあったシンジは、学院を抜け 出し、夜の町を彷徨う。そこで出会ったのは、懐かしいあの人! 次回懐かしのあの方が再登場!第八話「シンジ、脱走」 みぃ〜んなで観てね(笑)
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