愛野いずみ
切り株に腰を下ろして優しい木漏れ日を浴びていると、自然とシンジの口から溜め息が漏れます。切り株に座る前にホコリを叩いた手を、シンジは改めて見つめました。その手に、さっきまで一緒に居た人の感触を思い出します。
「タブラートさん…」
その名をゆっくり口ずさんでみます。あの、優しい赤い瞳、澄んだ声、しなやかな指先…タブラートの事を思い出したシンジは、身体の奥から沸き上がって来る不思議な感情に、激しく身震いしました。
「はぁっ………」
シンジは思わず息を飲みました。こんな事はおかしい。こんな事、今までなかったのに…。でも、不思議に懐かしい感覚。あれはいつの事だったでしょうか?今と同じような感覚は、幼い頃からずぅっと胸に秘めて来たような気がするのです。
そうだ、あれは…。シンジは思いを巡らせました。今から6年前の6歳の日、ネルフの丘に現れた不思議な少年に記憶が繋がったのです。今でもハッキリと覚えているあの少年。シンジだけの王子様です。シンジは王子様の面影を脳裏に描きました。優しい赤い瞳、澄んだ声、しなやかな指先…シンジの瞼の奥で王子様はいつしかタブラートさんに重なってゆくのです。
タブラートはシンジのひび割れやあかぎれしている小さな手に接吻ました。シンジは突然の事に、咄嗟に手を引き込めようとしたけど、タブラートの手に抑えられて、自分ではどうする事も出来ませんでした。タブラートの大きな手にしっかりと包まれたシンジの手は、当のシンジには逆らっている様に安心しきってさえいるかのようです。
「そうだよ…。キミの手は良い子チャンだね。こうして安心して、何もかもボクに委ねてくれればいいんだよ…」
タブラートはシンジの耳元で囁きます。普通の距離で聞いていてさえ、彼の声はシンジの耳にすんなり入って来るのに、吐息と共に漏れる声は、シンジの耳に直接働く媚薬のようです。自分ではイケナイ事をしているような気がするのに、タブラートの声を聴くとそれだけが支えとなった様に、タブラートの腕に武者振りついてしまうのです。そして、それを受け止めるタブラート。タブラートには、シンジを受け止めるだけの広い胸と、その余裕があるのです。
「タブラートさん…、ボク…、ボク……!!」
「いいよ、シンジくん。溜まっているモノは、すべて吐き出してしまった方がいい。そして、ボクが受け止めてあげる、すべてね…。さ…、シンジくん…」
タブラートはシンジの手を取ったまま、シンジの瞳に語りかけます。タブラートの瞳は、シンジの涙を通して歪んで見えます。シンジは恐る恐る、自分の手を口許に運びました。それはあくまでも優しい動作だったので、タブラートの手は振り払われる事なく自然とシンジの唇に触れました。タブラートの手に感じる、柔らかい感触。
「シンジくんっ!!……」
絞り出すようにシンジの名前を呟いた後のタブラートは、男の動作へと変化していきました。
「は…ぁ…タッ、タブラートさん…」
シンジの高く細い声が、吐息と交じって今にも消え入りそうに切なく響きます。
「いいよ、シンジくん…。キレイな声。キミだけしか奏でられない、最高の音楽だよ」
「は、恥ずかしいよ…タ、タブラートさん…ぁっ…!」
「恥ずかしい事なんて何もないよ、シンジくん。こういう時に奏でる音楽は、最高の生の歌だ」
タブラートの言葉の合間合間に、機械では絶対に出せないであろう音が混ざります。それが人間の湿った部分を擦り合わせるとそこから発する音だと、シンジが気づくのに時間は掛かりませんでした。どうしてそうなったのか?シンジが抵抗する間を与えずに、いえ、シンジが抵抗する事も忘れる程自然な流れで着る物をはぎ取っていったのです。タブラートの赤い瞳が、シンジの股間に沈んでいきました。タブラートの瞳には、うっすらと繁った草むらにチョコンと座り込んでいる「シンジ」が飛び込んで来ました。タブラートはしばらく見 つめると、いとおしそうに彼の唇に含みました。
「……っっっ!!」
シンジの声にならない声がタブラートの耳に飛び込んで来ます。
「けれど、それすらもボクには至上の歌声…」
タブラートはゆっくりと、自身の唇を上下させました。その度に、シンジの背中には一筋の何かが貫いて行くのです。でもシンジには、その感覚が「快感」と呼ばれるモノだとは判りませんでした。
「あ…、あ…。もう…、やめ…て…。もう……」
「もう、何なんだい?シンジくん」
タブラートはふと顔を上げて、悪戯っぽくシンジを上目遣いに見ます。
「フフ…カワイイよ、シンジくん。キミの細い腰も、淡い繁みも…、そして…キミはまだまだカワイイおチビちゃんだね、シンジくん」
言葉を発する時は指で。タブラートは一時も「シンジ」を休ませる事はしません。タブラートの指が動く度に、シンジは背筋や頭の先に走る感覚を抑えて細い腰を折れんばかりに仰け反らせるのでした。
「んっ………」
シンジはほとばしりそうになる嗚咽を堪えるために、歯を噛みしめます。奥歯にグッと力が入り、ギリギリと音を立てます。そこへ、タブラートの唇が被いかぶさりました。
「奥歯をダメにしてしまうよ、力を入れちゃダメだ…」
「あっ…もう、ボクがボクでなくなる………っっっ!」
シンジがそう焦った時、「シンジ」の反対側でも刺激を受けました。タブラートの指が、シンジの中に入り込んで居たのです。
「さぁ、シンジくん…」
「………あ………」
シンジの身体から、今まで溜め込んでいた感情が汚濁した液体となってほとばしりました。
「キミのパトスだね…」
死んだかのように身動きもしないシンジを、タブラートは優しく撫でるのでした。
その時、渚家では行方不明になったシンジを探して、レイ、ミサト、リツコが大騒ぎしていました。
「こうなったらカヲル大おじさまにお願いしましょうよ!」
「何を…?」
「何をって〜、え〜っと、シンジくんを探し出して下さいってぇ!」
「ミサト、あなた、ちゃんと考えをまとめてから言葉に変換なさいね。ブザマよ」
「っるっさいわねーっ!ちっ…」
そんな2人を横目で見ながら、口を開いたのはレイでした。
「私達で、大おじさまにお願いしましょ。碇くんを渚家の養子にして下さいって…」
「パーペキねっ!!」
3人は早速手紙を書いて出しました。
「そないな事したってムダやでぇ〜」
レイ達に声をかけたのは、トウジとケンスケでした。
「何ですって?」
「もうシンジは松代に売られる事になってるんだ」
「松代ですって???」
松代と言えば、この第三新東京市とは遙かに離れた場所で、貧しい農民達を奴隷の様に働かせて、何人も死んでいると聞く場所です。そんな所へシンジを連れていける訳がない!
やっとの思いで相田家に辿り着いたのも束の間、早速荷物をまとめるように言われました。松代に行くためです。そこで、シンジは奴隷のように扱われる事でしょう。もう、レイにもミサトさんにもリツコさんにも会えない…。そして、タブラートさんにも…。でも、シンジは自分の運命を甘んじて受けようとしました。
迎えの車に乗る時も、
「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ…」
と呪文の様に繰り返したのです。そのシンジの耳に、歌声が流れて来ました。
「あれは…」
そうです、レイとミサトとリツコが、シンジのために『残酷な天使のテーゼ』を合唱しているのでした。その歌声が遠くになるにつれ、シンジの視界は涙で曇るのでした。
「あ〜あ…とうとう行っちゃったわねぇ〜…」
そう言いながらえびちゅビールの缶を重ねていくのは、ミサトでした。
「そうねえ。あなたとシンジくん、結構シンクロ率高そうだったけど…」
皮肉にも思える程の微笑みを浮かべて呟くのはリツコ。レイは一人、無言で窓の外を見ています。
「そんなに飲んでると、またキール大おばさまに叱られるわよ」
リツコの注意も聞かず、ミサトは缶を重ねていきます。
「あっ、あれは…?カヲルおじさまの車…」
レイが窓の外を覗き込むように、身を乗り出そうとしました。
「あれは!碇くんっ!!」
「なんですってぇっ!?」
その声は、ビールの空き缶で作った塔が崩れる音もかき消す程でした。3人はすぐに外に出て、車を迎えました。
「ミサトさん!リツコさん!…綾波ぃ!!ボク、ボク…、渚家の養子になれたんだよ!夢みたいだ…」
「本当!?」
「そうなんです。カヲル大おじさまが…!ボクはここに居てもいいのかもしれないっ!!」
「おめでとう!おめでとう!!」
シンジを包む拍手は、いつまでも鳴りやみませんでした。シンジは、この幸福も拍手の様に永遠に続けばいいと願うのでした…
続くわよ〜ん(笑)
★カヲル大おじさまのお蔭で渚家の養子となり、至福の時を得たかのように見えたシンジ。レイ・ミサト・リツコの3人は、温かくシンジを見守る。そしてシンジのお披露目パーティと称されたセミ狩りの日、シンジの目に映ったモノは? またしても事件が少年を襲う。 次回はおヤヲイ無しのヨ・カ・ン(笑) 次回、『死に至るセミ狩り、そして…』次回もサービスしちゃうわよん(笑) |